小ネタ

フォロワさんと盛り上がった小ネタをぽい。
腐向け注意。



******


 じわじわと外の気温が上がっているが、部屋の中はクーラーが効いていて快適だ。
 見上げた窓の外は眩しいほどの晴天が続いている。かなりのお出かけ日和だった。
 だというのに……。

「有人さん、有人さん」
「どうしたのー?」

 振り返って家主を呼べば、ぼんやりとした声が返ってくる。
 いつものんびりした様子だが、今は一層その気配が強い。本に集中しているのだ。いや、返事があるだけ、まだ集中とは言い難いのか。

「外、めっちゃ晴れてるっすよ!」
「そうだねー」
「どっか行きたくないっすか?」
「うーん、暑いねー」
「有人さんの車で行けば大丈夫ですよ!」
「うーん」

 あまり気乗りはしないらしい。
 元々引きこもりがちな人だ。秀があれこれ行きたがるので有人もよく付き合ってくれるが、そうでなければずっと家にいたいのかもしれない。
 しかも今は、しばらく手に入らなかった念願の本がようやく届いたのだという。意識がどうしてもそちらに向いているのだろう。

 むう。
 分かりやすく頬を膨らませ、しかし、秀はすぐにその空気を吐き出した。
 普段はよく自分のワガママに付き合ってもらっている。だから彼がやりたいことがあるときは優先してやりたいと思っている。読書に夢中になっていたって、それは、いい。仕方ない。それに……。

 冷えた麦茶が注がれたコップを手に、秀は有人がいるテーブルの前まで戻った。
 彼は相変わらず本に目を落としている。一文字も見逃さないとばかりにじっと集中している。時折、何か考え込むように、挑むように。いつもの気が抜けそうな笑みとはほど遠い、真剣な眼差しで。

(ギャップがなー。カッケーんだよなぁー)

 麦茶を一口含み、秀はまじまじと彼の姿を目におさめた。いつもの安心する空気もとても好きだけど、今みたいな尖った空気の彼も、また、新鮮で良い。
 ――難を言えば、構ってもらえないのが、少し、寂しいけれど。

「……」

 すっくと秀は立ち上がった。ガサゴソとスマートフォンとイヤホンを引っ張り出し、有人の横にずりずりと移動する。

「秀くん?」
「お邪魔しまっす」

 さすがに気づいた有人が顔を上げるが、秀は構わず彼を跨ぐようにし、そして、彼の足の間に腰を下ろした。
 これで、有人は秀を抱えなければ本を読めないことになる。
 ――いや、読もうと思えばいくらでも読めるだろうけれど。まあでも、一番読みやすい姿勢は妥協案としては抱えることだろう。そういうことにしておく。秀が勝手にそう決めた。
 ぱちぱちと瞬いた有人が、にこやかに笑う。

「どうぞー」
「うぃっす」

 有人が再び本に視線を落としたのを確認し、秀はぐいと体を彼の方に預けた。イヤホンをつけ、適当に曲を流す。

 触れたところから伝わる温もり、微かに感じる鼓動。軽快に流れる音楽。ふいに頬を過ぎ去るクーラーの風。
 時折、わざとか、無意識にか、有人の手が秀の頭を優しく撫でる。
 沈黙が苦手な自分も、この時、この瞬間だけは手放しで安心できて、秀はそっと目を閉じた。


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