たくさんの最後

体調やら仕事やらは相変わらず低空飛行もいいところですが。
「妖怪ネットワークどっとあや」については、2章の方向性がようやく固まってきました。
序盤と終盤は大体決まったので、中盤を膨らませることができたらいよいよ執筆にも移りたいなと。
それに伴ってちょっとずつ妄想する元気も出てきたり。
やっぱり妄想ってたーのしー。

とはいえ方向性を固めるだけで随分と時間がかかりました。うぬーん。
実は本当の序盤の序盤だけは2ヶ月くらい前に書いていたのですが、今回の方向性による案で全て書き直しです。
見切り発車で書くからこんなことになるんですよね/(^o^)\

うーん、でも、何とか書き上げたい!


そんな思いにもぞもぞしつつ、お題消化です。

お題:きみがため

き 切りとった秘密
み 見つけてあげられた
が がまん、しないで下さい
た たくさんの最後
め 珍しいこともあるものだ


お題配布サイト:Kiss To Cry




*****


 長く生きていれば、様々なことがあるものだ。面白いこと、悲しいこと、嬉しいこと、悔しいこと――あまりにも雑多に過ぎていく感情には、もはや名前を付けるのも煩わしい。
 そうやって妖狐の今野珠美は時に流されて生きてきた。気の赴くままに身をゆだねて過ごしてきた。
 そんな珠美の最近のお気に入りは、一人の人間だ。
 珠美がヒトに化けなくても彼は自分の姿が見えるという。昔はそういう人間も多かったが、近頃はめっきり減ってしまった。だから見えるだけでも興味深いというのに――剛胆なのだろうか、自分に怯える様子も、自分の美貌に酔いしれる様子もない。
 そんな人間もいるのかと、珠美はひどく興味を持ったのだ。

「周作さん」
「……またお前か」
「んふふ、つれないわね。何してるんだい、こんなところで」
「別に何もしちゃいない。仕事の帰りだ」
「何だい、つまんない人間だねェ」
「よく言われるな」

 あまりにも淡々と返されて、珠美はむぅと頬を膨らませる。
 彼を本当につまらないと思っているわけではない。だからこそ珠美はこうしてちょっかいをかけに来る。だというのに、当の本人がこの調子では張り合いがないというものだ。

 男は、背が高かった。筋力的には強そうには見えないが、愛想がない分、奇妙な迫力があった。
 勿体ない、と珠美は思う。
 彼がもっと打ち解けるよう心を配れば、きっと彼の周りには人が増えるというのに。
 はぁ、と珠美は大袈裟にため息をつく。頬に手を当て、小首を傾げた。

「そんな怖い顔ばっかしちゃって。もっと人生楽しんだらどうなのさ」
「……」
「だんまりかい? 都合が悪いとすぐそれなんだから」
「……カミさんに会えて、それで十分だ」
「あら殊勝」

 ふぅん、と珠美は嘯く。
 彼には確かに結ばれた女性がいる。珠美も見たが、大人しそうな女性だった。寡黙がちなこの男と一緒にいて会話が続くのかも怪しい。しかし――確かに、幸せそうだった。

「……お前もいるしな」
「……あぁら」

 ぽつりと紡がれた言葉に、珠美は目を丸くした。
 にぃと口の端を上げる。

「あら。あらあらあら。やだわ急に」
「ふん」
「んふふ、罪なお人」

 少女のように微笑みながら、珠美は彼の後ろをついて歩いた。
 この、何でもない、ありふれすぎた、ささやかな時間が珠美は存外好きだった。
 だけど。
 長く生きてきた珠美は知っている。
 終わりというのは、誰にでも、どうしたって訪れるものであることを。


「……だからってねェ」

 白い壁に囲まれた一室。
 やせ細った老人の姿に、珠美は深々と息をついた。
 彼の周囲は静かなものだ。ここだけ時が止まっているのではないかと錯覚しそうになる。
 そんなことは決して、決してないのだけれど。

「全くあんたは。老いぼれになるばかりじゃなくて耄碌にまでなっちまったのかい」

 返事はない。
 彼のぼんやりとした瞳は、自分を映さない。
 無愛想もここまで来ると一級品だ。
 ――少しくらい、笑ってくれてもいいのに。
 ――自分を見てくれても、いいのに。

「嫌ねェ、人間っていうのは。本当に脆いったらないんだから」

 ほろほろとこぼれ落ちた言葉は壁に空しく吸い込まれていく。

 ――彼はとうとう、自分の姿を認識できなくなってしまった。
 珠美の姿は彼の目に映らない。声も届かない。
 あんなにも愛おしかった当たり前は、こうも脆く消え去ってしまう。

「コン姉、帰るぜ」

 ふいに部屋の入り口から声が掛けられた。
 視線を向けると、そこには一人の青年の姿。

「あら。シュウ坊、手続きは終わりかい」
「おー。じいちゃんのこと見ててくれてサンキューな」
「んふふ。ありがとうはこっちさね」
「ん?」
「素直じゃないね」
「何のことっすかねー」

 ケラケラと青年は笑ってみせる。目の前でぼうっとしている彼とは全く面影が見当たらない。二人に血の繋がりがあるなんて、きっとにわかには信じられない。
 それでも、この二人は確かに血の繋がった家族で。
 珠美には、それがいやに嬉しい。

「二人きりにさせてくれてありがとね、シュウ坊」
「オレは別にだケド……どういたしまして?」
「ねえシュウ坊」
「んー?」
「シュウ坊は最後まで、あたしのこと、見といてくれよ」

 青年が目を瞠る。
 珠美は微笑む。

「んー」
「シュウ坊、返事」
「善処しまっす」
「んふふ。シュウ坊があの人みたいにあたしたちのことが見れなくなったら……そのときは、見れなくなる前にあたしが食べてあげるさね」
「やだ物騒」

 あはー、と気の抜けた笑い声を上げ、青年は歩き出した。珠美もその横に並ぶ。

(本気だよ)

 今まで、たくさんの最後を見届けてきた。
 だけどそれでは珠美の心には響かない。
 きっと、もう少しだったのだ。彼が最後まで自分たちを認識してくれていれば、変わらないでいてくれれば、そうすればきっと、珠美は何かを得ることができた。掛け替えのないものを感じることができた。
 だというのに、現実は残酷なもので。
 だから、珠美は、願う。
 青年の最後が、自分にとって喜ばしいものであることを。

「楽しみさね」

 青年は、何がとは聞かなかった。
 ただやはり、ふわふわとした笑みを返してくるだけだった。
 しかしそれも「あの人」からは得られなかったものなので――珠美はそれなりに満足しているのだった。


たくさんの最後
(それを彩るのは、)


*****

コン姉の長い時間に思いを馳せると、色々ドラマがありそうで、もっと掘り下げてみたくなります。
キリがなさそうですけどね(笑)
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Comment

    

第二章遂に始動ですか?
こりは楽しみ

そして、このコン姉の過去のお話
ちょっと切なくてきゅんっとしちゃいますな

ところでコン姉幾つなの?(´・ω・`)

コメントありがとうございます〜!
本当にいよいよ、ようやく……という感じです。
いつも中盤を埋めるのが苦手なので、そこが気がかりなところでもあるのですが……

コン姉のお話についてもありがとうございます!
切ない雰囲気が出せたならとても嬉しく……(〃ω〃)
歳は、あの、ダメですよ、女性にお歳は、ほら……雪音さんたちも怖い顔して睨んできちゃいますしねっ!:(;゙゚'ω゚'):笑

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二つ名:囁(アビス)
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(※二つ名メーカー、脳内メーカー等による結果)
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