ちぐはぐな二人の出会いをば

仕事が残業続きです。
心身共にへなちょこなんでしんどい日々が続いておりますが、どうもみなさま、いかがお過ごしでしょうか。

今回は息抜きも兼ねて(まあ大体いつも息抜きばかりしてる気もしますけどね!)、小話をば。
といっても明らかに自分だけが楽しいぜわっしょい、という特殊設定なんですが……。

有馬君と凛花ちゃんの出会いinCoC。みたいな。

CoCはクトゥルフです。
つまり、探索者としての有馬君と凛花ちゃん。

えーと……わかりにくいですよね……えぇぇと……

元々、「有馬秀」というキャラクターはCoCの探索者として誕生しました。
25歳の精神科医さん。

だけど色々経た中で、彼をお話の中で動かしたいなーとなりまして。
それでできたのが、現在連載中(ちょっと止まってますね、すみません)の「妖怪ネットワークどっとあや」です。
そこでは、動きやすさや話の都合で設定をいじり、21歳の大学生になりました。
一方といいますか、その主人公として生まれたのが「咲坂凛花」というキャラクターです。

そして、その凛花ちゃんを、今度は逆にCoCの世界に輸入してみたら……という。
そんな行ったり来たりの成れの果てです。
混乱しそう。わーお。

探索者としての凛花ちゃんは、21歳ですかね。有馬君との年齢差を変更しないために。
そんなわけで今回のお話は、精神科医と大学生の彼らのお話です。
……ただし出会いについてなので、お話の中での最初の年齢は17歳と21歳です……わ、訳が分からねぇなこりゃ。


そんな自己満足の作品ですが、追記にぽーい( ´∀` )





*****


 その人は第一印象からして軽々しかった。

「ちーっす! どもども、家庭教師の有馬秀でっす! 今日からよろしくお願いしまーす!」

 無駄に大きな声で、いやにハキハキと、妙に楽しげに。
 そんな挨拶をぶちかまされて、咲坂凛花は思い切り身を引いた。
 しかし母親はむしろ好印象を抱いたようで、丁寧に頭を下げている。
 ほら、と促され、凛花も仕方なく頭を下げた。

(……失敗だったかも)

 そんな正直すぎる胸の呟きは、何とか口に出さずに済んだ。





「凛花ちゃん成績いいねー。これオレいらなくね?」
「しっかり仕事はしてください」
「まあお金もらってますし。やりますケド。やっちゃいますケド。えーどうする? こうなりゃ学年トップ狙う? 狙っちゃう? 東大狙っちゃう? ヒュー! 夢広がるなー」
「……」

 口から生まれたのだろうか。
 そう思うほど勢い良くまくし立てられ、凛花は思わず溜め息をついた。途端に「幸せが逃げちゃうらしいっすよー」なんて使い古された言葉を向けられ、眉間にシワが寄る。

「先生」
「先生なんてそんなー」
「真面目にお願いします」
「分かってる分かってる」

 どう言ったところで彼にはのれんに腕押しだ。
 凛花はムッとしながらまじまじと彼を観察した。
 ――パッと見ただけだと、格好などはチャラチャラしているわけではなく、むしろ好青年の部類に入るのだろう。二十一歳ということで凛花より四つも上だが、優しそうな風貌からは害意や危険性も感じられない。しかも医大生だと聞いている。
 なるほど、見た目や条件だけならば家庭教師にはうってつけなのかもしれない。
 ――口を開きさえしなければ、だけれど。

「はーなるほどなるほど、へー。うっはこの教科書変わってねー! あははこっちはスゲー変わってんじゃんっ、超カラフルやべー」
「あの、ちょっと」
「うんうんお勉強な。凛花ちゃんの苦手なトコって?」
「……国語だとか、文系が少し……暗記自体はそんなに苦手じゃないんですけど」
「凛花ちゃんって『このときの登場人物の気持ちを答えなさい』系苦手そうっすなー」
「ぐっ」
「ギャハハ図星!」
「うるさいですよ!」

 凛花は確信する。
 失礼だ。この人、とっても失礼だ。

 しかし大笑いした秀は、案外早く切り替えてきた。
 涙を拭い――そこまで笑えるものなのか――問題集を広げてくる。

「ほい、じゃあ、今日は一日目だし。とりあえずオレも様子見たいし、問題集解いてみっか。分かんないトコあったら聞いてくれていいから。せっかくだしテスト範囲のとこやってみますかねーっと」
「……」

 釈然としない気持ちはあったが、凛花とて、いつまでも拗ねてはいられない。
 言われるままに問題集に取りかかる。
 ――悔しいことに、教え方は分かりやすかった。


***


「テストの結果出たんだ?」
「はい」
「お、上がってんじゃーん」

 秀に家庭教師を頼んでから、数週間が過ぎた。
 頻度は多くなく、テスト前になると調整して増やされることもある程度だ。
 だがその数少ない機会で、彼は凛花の家族にも大分慣れたらしい。両親は揃って「晩ご飯でも一緒に」「晩酌くらいどうだね」などと気軽に誘い出す。家庭教師という扱いを越えている気がしてならない。それに応える彼も彼だ。凛花としては、もっと弁えてほしい。言っても意味がないのだろうけれど。

「秀さん、私は勉強がしたいんです」

 テスト用紙を見ながら「へー」だの「ほー」だの感嘆の声を上げてばかりの秀をじっとりと睨んでやる。
 睨まれた彼はヘラリと笑った。

「うん、分かんないとこあったら聞いて?」
「そうじゃなくてもっと……」
「それにしても成績上がってんのはやっぱ嬉しいっすなー」
「っ、私が頑張ったからですよ」
「うんうんエライ!」
「そうじゃなくて!」

 何となく彼のおかげだと言うのは悔しくて可愛くないことを返したが、その返答はやはり、あっさりしたもので。
 凛花は苛立ち紛れにテーブルを叩いた。ミシリと音がする。――そんなに脆いテーブルではなかった気がするのだが。

「私はちゃんと勉強がしたいんですってば! それなのに秀さんってば、やる気あるんですか! もっと積極的に教えてください!」
「でも凛花ちゃんの今の成績なら、オレなんていらないと思うんだよねー」

 あは、と秀は読めない笑みを叩きつけてくる。
 凛花は眉を寄せた。最初にも言われたことだ。確かに凛花自身、学校の成績に特段困っているわけではない。
 それでも、それでは、足りないから。
 物分かりの悪い彼に、凛花は唸るように声を絞り出した。

「確かに学校での勉強なら困ってませんけど。でも、せっかく両親が、私のために」
「言ってたねー。凛花ちゃん自身がもっと上を目指したいなら、できるだけその環境を用意してやりたいって。そんでオレがお呼ばれしたワケだケド」
「だから」
「でも凛花ちゃん、周りが思うほど勉強好きじゃないっしょ?」

 虚を突かれた。
 凛花は目を丸くする。すぐに反論しなければと思うのに、とっさに言葉が出てこなかった。

「……勉強なんて、好きじゃない方が普通じゃないですか」
「あはは、そうかもな。でもだったら、やっぱ今の凛花ちゃんで十分だと思うワケっすよ。無理に詰め込む必要はねーっつーか」
「でも足りませんよ。上には上がいるんですから」
「それは誰の意思?」
「え?」
「誰の意思で上目指してんの?」
「……」

 彼が何を言いたいのか分からない。得体の知れない不快感が募っていく。
 それを読み取ったのだろうか。
 ふ、と彼は目元を和らげた。

「あのさ、違ったらごめんねだケド。凛花ちゃん、ご両親の期待に必要以上に応えたいって思ってない?」
「そんなこと……」

 ない。
 そう、言い切れるだろうか。

(……だって……)

 ――凛花は、この家の実の子ではない。養子だった。
 そのことを不満に思ったことはない。今の両親からは、本当の子供以上に愛情を与えられてきたと思っている。大切にされていると分かっている。
 だから、凛花は、それに応えたかった。
 できるだけの恩を返したかった。
 自慢の両親の、自慢の子でありたかった。

 それの何が悪いのだろう。何が間違っているのだろう。
 そんな思いで秀を見上げれば、彼は少しだけ困ったように「うーん」と小首を傾げてみせた。

「ご両親は凛花ちゃんのこと、とても大切に思ってるよ。勉強も運動も頑張ってて、実際スゲー優秀で。だから凛花ちゃんがもっと頑張りたいっていうなら、制限しないで、できる限り望む環境を与えたいんだと」
「……」
「でも逆に言えば、凛花ちゃんが望まないなら、今のままでも十分すぎるんじゃないかなって。ご両親も凛花ちゃんが無理までして頑張ることは望んでないと思うんだわ」
「……私は別に……」

 テーブルの向こうから手が伸びてくる。
 案外大きなその手は凛花の頭をわしわしと撫でてきた。
 やめてください。そうすぐ返せれば良かったのだが、彼に対する反論を考えていたせいで反応が遅れてしまう。そうやって言う機会を逃してしまえば、されるがままでいるしかない。

「凛花ちゃん、スゲー頑張ってんじゃん」
「な、何ですか急に」
「そんで素敵なご両親じゃん」
「分かってます」
「うん、だから大丈夫大丈夫」
「何が……」
「凛花ちゃんは今のままでもちゃんと愛されてるよ」
「……」
「オレが保証してやんよ」
「……アテになりませんね」
「あはー」

 気の抜ける笑い声を上げた彼は、最後にオマケだというように、優しくポンと頭を撫でた。
 髪がぐしゃぐしゃになっていないか気にかかる。撫でられていた箇所に触れ、軽く整えてから、凛花は短く息をついた。
 彼は一体、どこまで事情を知っていたのだろう。もしかしたら全て知っているのかもしれない。何も知らないのかもしれない。
 凛花にとっては、どちらでも良いけれど。

 言いたいことはたくさんあったが、まとまる気がしない。
 だから凛花は、ひとまず、一つの答えだけをすくい上げることにした。

「…………私、負けず嫌いなんです」
「うん? そだね?」
「だから……」

 顔を上げる。真っ直ぐに彼を見る。

「それでも、私はやっぱり、もう少し頑張りたいです。……自分のために」
「そっか」
「はい」

 やはりあっさりすぎる笑みを浮かべた彼は、うーんと軽く伸びをする。

「じゃーオレももうちょいお付き合いしますかねっと。そんじゃ今日の課題行くっすよー。テストで間違ったトコは重点的にな!」
「課題始めるまでに随分とかかりましたね」
「急がば回れって言うじゃん?」

 口調をことさらカラリとしたものに変えて彼は言う。
 まるで空気ごと切り替わったようで、凛花は少しだけ拍子抜けした。
 それでも今までのようにイライラとした気持ちは起きなくて、思わず苦笑する。

「今度こそ真面目にお願いしますね」
「オッケオッケ、スパルタでいくから!」
「期待しないでおきます」
「あっは、凛花ちゃん分かってるぅ」

 そうして、凛花と変わった家庭教師の関係は、凛花の受験のときまで細々と続き、そこで恙なく終わる――
 はずだったのだが。



「秀さん!」
「うおっ」

 家に上がり込んだ凛花に、机に突っ伏していたらしい秀が飛び上がる。
 胸に手を当てて「心臓飛び出るかと思ったー」などとアホな呟きが聞こえてきた。
 はあ、と、凛花は思い切り溜め息をつく。

「鍵開いてましたよ。不用心ですね」
「いやそれでもチャイムは押そうね? 事前に連絡しようね? つーかオレがいなかったらどうする気だったん?」
「何度でもチャレンジしますよ」
「無謀! どしたん急に?」
「……」

 ヘラヘラと笑みを浮かべる彼に無言で近づく。
 彼が「凛花ちゃん」と呼びかけようとしたところで、ダン、と凛花は思い切り机に手を当てた。ミシリと音がする。――やはり机は脆いものだ。

「秀さん、今度のお休みはいつですか」
「え」
「映画。連れていってくれるって言ってましたよね」
「あれ? 友達と行けなかったらって話じゃなかったっけ?」

 何度か瞬いた秀は、不思議そうに首を傾げた。
 確かに彼は、「あー面白そうだよなそれ。凛花ちゃん見に行くんだ? へー誰と? あ、未定? じゃあ誰もいなかったらオレ行っちゃおっかなー?」とペラペラ冗談混じりに話していた。きっと本当に軽いノリで、冗談のつもりだったのだろう。凛花もそれは分かっている。
 分かっていて、冗談であることをスルーした。

「いつですか」
「え、えーと?」
「い、つ、で、す、か」
「……、……」
「すぐにお休みが出てこないんですねそうなんですね」
「え、や、えーと。ごめん。今ちょっと仕事がバタついてて」
「だからって。……あ、ほら、冷蔵庫の中だって空じゃないですか! ちゃんと食べてるんですか」
「食堂使ってるって」
「何食べたんですか」
「えっと」
「そもそも何でこんなところで寝てるんですか。ベッドがあるでしょうベッドが」
「あ、あはー?」

 有無を言わせない怒濤の追及に、秀の表情がひきつっていく。

 凛花が無事大学に入ってもなお、二人の付き合いは地味に続いていた。
 ――この男、思った以上に自己管理が甘いらしい。より厳密に言えば何かと自身のことにかけては疎かにしがちで、その実態を知った凛花は、いつの間にか放っておけなくなっていた。だからこうして、時々押し掛けに行っている。
 彼にとってはありがた迷惑かもしれない。
 しかし凛花は、やめる気もない。これは、自分の意思で、自分のためにやっていることなのだ。

 困ったように頭をかいた秀が――じわじわと何かがツボに入ったのか、ケラケラと笑い出す。

「凛花ちゃん」
「何ですか、言い訳は聞きませんよ」
「たくましくなったなぁ」

 相変わらず気の抜けるような笑みを浮かべる彼に、凛花は深々と溜め息をついた。

「……おかげさまで」

 二人の奇妙な関係は、まだまだ続きそうだ。



*****


「妖怪ネットワークどっとあや」とはまたやっぱり違うのですが、それでも全部設定を変えるのも引っかかるので、色々とシフトさせたりなんだりして、こんな感じに。
でもまあ、今回のお話は、あくまでもCoCの世界の設定ということで。

おそまつさまでした!
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二つ名:囁(アビス)
あだ名:エゴイスティックスケコマシ
四字熟語:好色生活
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