リプレイ風小説:DolL①

2016/05/15 Sun 19:57

大分記憶が怪しい状態ですが、せっかくなので……
再びのリプレイ風小説です。

今までの⇒
冬薔薇に捧ぐ:
(元シナリオ:あずま様
死の旋律   :
(元シナリオ:ますじ様
DolL      :①(これ)
(元シナリオ:おぎーノ様


ではいつもの注意事項。

追記に放り込んでおきますが、リプレイということで、当然ながらシナリオのネタバレにもなります。
プレイヤーとしてこのシナリオでセッションするんだという方がいましたら、お気を付けください。

あくまでもなんちゃってです。
記録があるわけでもなく、うろ覚えなまま改変等々をふんだんに盛り込んでお送りいたします。

それでもよろしければ、どうぞ、お付き合いくださいませ。


*****

<DolL①>

 目が覚めると、見知らぬ部屋だった。
 そんな不可思議かつ理不尽な状況に突如置かれた有馬秀は、呆然とその部屋に立ち尽くした。動揺する気持ちはある。あるが、真っ先に浮かんだのは「またか」だった。
 どうしたことだろう、ここ最近は奇妙な状況に置かれることが多い。いや「置かれる」などという言い方は生ぬるいかもしれない。突き落とされる、ぶちこまれる――そんな乱暴な表現の方が合っている気がした。
 嫌な予感にも確信にも近いものを抱えながら、そろりと周囲を見回してみる。するとそこには見知った人影――大小の差が激しい二人がいた。
 小さな影は銀木優、秀とは同い年かつ職場が同じ看護師だ。そしてもう一人、巨体のその人はドナルド・ドゥードゥー、フランス人だった。
 このメンバーは、以前、音楽ホールでも行動を共にしている。そのときも不気味でおよそ現実的ではない出来事を経験した。有馬の嫌な予感はいよいよもって確信を帯びてくる。

「……ち、ちわっす?」
「先生……また、でしょうか」
「みたいだなぁ」

 あはー。漏れた笑いは乾いてしまって、我ながら情けない。

「ドゥードゥーさんも、ですか」
「ああ……。何をしていたか全然覚えていない。もしかしたら喫茶店のカウンターにいたかもしれないが」
「私も気づいたらここにいました」
「オレも。うっすらレポートやってた記憶があるようなないような?」

 誰もが記憶が曖昧のようだ。一体なぜ自分たちはこんな場所――見た限りでは全く見覚えのない部屋だ――にいるのだろう。
 部屋の中には五つのベッド。それから少し高いところにガラス窓がある。高いといっても、有馬が背伸びをすれば外を見られそうな位置だ。さすがに銀木には厳しいかもしれない。何せ彼女と有馬には二十センチほどの差がある。
 恐る恐る外を見ると、オレンジっぽい煙が周囲を覆っていた。見たことのある景色ではない。日常的に見える光景でもない。

「何だ? ここ」
「何が見えます?」
「なんかオレンジ? の煙? それが周りをぶわーっとしてるわ」
「煙?」
「これ、ガラス割ったら外に出れるんかなぁ」
「えぇ……煙があるんですよね? 迂闊に出ない方がいいかもしれませんよ」
「だよなぁ……」

 いざとなったら手段は選んでいられないが、確かに最初から危険な橋を渡る必要はない。あっさりと有馬は引き下がり、次にベッドの方に目を向けた。
 先に見ていたのはドゥードゥーだ。彼はいくつもの布団をひっくり返し、何やら唸っている。

「ドゥードゥーさん、どうしました? 何かありましたー?」
「肉切り包丁があるな」
「……包丁?」
「しかも四つだ」
「ベッドに一つずつあったんですか?」
「ああ。端だけなかったが」

 言いながら包丁を両手に掲げるドゥードゥー。危ない。迫力もあって、正直、怖い。
 有馬は顔をひきつらせ、そっとベッドに近寄った。ドゥードゥーが一つのベッドにかき集めた包丁がゴロンと転がっている。

「どうします?」
「危ないし怖ぇーよ。うっかりケガしてもやだし、シーツで包んどこ」
「え」
「え?」
「俺、持ってていいか?」
「え? 持ち歩くんすか?」
「できるなら」
「……んん、まあ、いーっすケド」

 有馬は正直、持ち歩いても落としたり何かをうっかり傷つけそうで怖いが、ドゥードゥーは筋力もある。その辺の心配はないのかもしれない。何よりこんな得体の知れない場所だ。武器がある方が心強いという気持ちは理解できる。

「じゃあ二つ持ってくな」
「二刀流!?」

 重装備すぎやしないだろうか。途端に不安になる。

「えーっと……銀木さんは? どうする?」
「私もとりあえずは置いておきます」
「りょかー」

 そんなわけで、二つの肉切り包丁をシーツに包み、残り二つはドゥードゥーが両手に持つことになった。きっちり二つの包丁を包んで掛け布団の下に隠すようにし、有馬は一息つく。まだ何もしていないのに、何だか妙に一仕事を終えた気分だ。

「さて、そこにドアはありますケド……」
「……物音は聞こえないぞ」

 耳をそばだてたドゥードゥーが一つうなずく。それから彼は、どうぞと言わんばかりに一歩引いた。ドアを開けろということらしい。前回はドアを蹴破っていた人とは思えない行動だ。無鉄砲なのか臆病なのかよく分からない。

「まあ、いーっすケド……」

 銀木に開けてもらうのも気が引けて、有馬は渋々ドアの取っ手に手を掛けた。キィ、と音を立てて扉が開く。
 扉をくぐると、そこは食堂のようだった。真っ先に目につくのは大きな長机だ。その周囲には五人分の椅子。それから暖炉、三つの扉。人影はない。

「誰もいないみたいっすね……?」

 おっかなビックリ、有馬は足を踏み入れた。銀木とドゥードゥーも後からついて来る。

「あ、ご飯がありますよ!」

 銀木が喜色の声を上げる。見れば、確かに長机の上には食事が並んでいた。ハンバーグにスープ、サラダ、そしてワインだろうか。一人分だけ手をつけた痕がある。
 その机の上には一枚のメモ。ひょいと覗き込んでみる。

『ご機嫌はいかがでしょうか、皆様。
 突然の事態で戸惑っていることだと思います。
 とりあえずは、そこの食事にでも口を付けてお待ちください。
 食材はすべて自家栽培の物となっておりますので、安心してください。
 時間になりましたら、係りの物をそちらへ送ります』

「自家栽培……」
「美味しそうですね!」
「いやいやどう考えても怪しいっしょ」
「自家栽培ですよ、安全ですよ!」
「いやいやいや」
「お腹空きました!」
「いやいやいや」

 何故かやたらと食欲を見せる銀木――いつものことと言えばいつものことだが――に焦る。得体の知れない場所で得体の知れないものを口にするだなんて。
 それに何やら違和感のようなものが引っかかっていた。その正体を探ろうと、有馬はじっと食べ物に目を向ける。どれも確かにとても美味しそうだ。丁寧に作られているのが分かる。
 だが――しかし、これは――。

(……もし、かして)

 結びついた答えに、変な声が出そうになった。とっさに口を覆う。

(これ、人肉……だよな……?)

 何故分かってしまったのか。自分が医者であることを有馬はほんの少し後悔した。
 人の死肉があるという事実だけでも気が滅入るのに、それを料理してしまうだなんて。猟奇的なその行為に血の気が引く思いがした。想像しただけで具合が悪くなる。

「先生? 顔色悪いですよ?」
「あ、あはー……何でもない」
「で、食べていいですよね?」
「いやいや。落ち着いて銀木さん。ほら、よもつへぐいとか言うじゃん? こんなトコで物を食うってのはオススメできねーよ?」
「でも美味しいものは美味しい内に食べないと」
「んんんん」

 頑なな彼女に困り果て――ちら、と有馬はドゥードゥーを見た。

「ドゥードゥーさん、押さえといてください」
「よしきた」
「あれぇぇぇ?」

 ドゥードゥーが銀木に組み付く。小柄な彼女は到底抵抗することができず、じたばたともがくだけだ。
 その隙に有馬は暖炉の方へ歩み寄った。暖炉には火が焚かれている。さらにそこには蓋のされた大きな鍋が置かれていた。開けてみればスープが入っている。机の上にあったのと同じものだろうか。
 それから三つの扉もざっと見てみたが、どうやら鍵がかかっているらしい。

「開かないみたいっす。どうしましょうか……」
「ほら、やっぱり食べるしかないと思いますよ!」
「銀木さんは落ち着こうなー?」
「落ち着いてますっ」
「嘘だろ」

 まだ何も始まっていないのにすでに発狂中といっても差し支えのない食欲っぷりである。彼女の場合、これがデフォルトといえば、デフォルトなのだけれど。
 そうやって悩んでいると、ふいに奥の扉が開いた。有馬はビクリと身体を強ばらせる。ドゥードゥーも驚いて銀木を手放したようだった。さすがにそのまま食事に飛びつく気はなかったのか、銀木もまた視線を扉に向けている。
 奥から出てきたのは――機械の人形のようだった。
 ギチギチとぎこちなく現れたその人形は、ぐるりと自分たちを見回す。まるでその視線は自分たちを選別するかのようで居心地が悪い。

「……ヨウコソ、イラッシャイマシタ」
「喋った!?」
「オショクジハ クチニ アッタデ ショウカ?」
「いや、つーかここどこ? 何のつもりで……」
「オナカモ フクレタ トコロデ、ドウゾ、コチラヘ……」

 こちらの質問には一切反応がないまま、自動の人形はカタカタとまた奥の部屋に戻っていく。三人は顔を見合わせた。

「……どうします?」
「行くしかないんじゃないでしょうか?」
「他に行けるところもないしな」
「デスヨネ」

 とほほん、と力なく肩を落とす。
 そうなのだ。他の扉は開かず、初めの部屋も他に行けそうな場所などなかった。選択肢など最初からあってないようなものだ。
 一応であろう、ドゥードゥーが扉の前に立ち、耳をそばだてる。それから彼は首を振った。特に音は聞こえないらしい。
 それから場所を譲られたので――またか!――有馬はおっかなビックリ、ドアを開けた。
 部屋は、質素なものだった。広さも大したものではなく、すぐに全体を見渡すことができる。すぐ近くにあるのは作業台だ。そしてその奥には椅子の上に座った――。

(女の子……?)

 一緒に覗き込んでいた銀木と顔を見合わせる。

「人? でしょうか?」
「でもなんか……」

 目をこらすが、少しばかり薄暗く、よく見えない。仕方なく三人は中に踏み入り、その少女の近くまで歩み寄った。そして気づく。その少女の首には鍵束が掛けられていることを。そして――少女には一切の四肢がないことを。

「!?」
「えっ……」
「これは……?」

 三人がぎょっとしていると、それを見越したかのように自動人形が喋り出す。

「アナタタチニ オネガイガ アルノデス。カノジョヲ ツクリアゲテ クダサイ。パーツハ、オナジサイズダッタラ マァイイデショウ」

 そんな怪しげな言葉を吐き出した自動人形は、部屋の端に移動すると、そのまま動きを止めてしまった。
 ポカンとしたまま、三人はそれぞれ思考を整理する。――整理するほどの情報もないのだけれど。

「作る……って、え? この子、そもそも生きてるんすかね……?」
「こんな状態で生きていられるとは到底思えませんけど……」
「……鼓動が聞こえないぞ」
「え、やっぱ死んでるんです?」
「いや、というより……」

 少女に触れてみたドゥードゥーが首を傾げる。それにならうように触れた銀木も目を丸くした。

「温かくもないですね」
「……人形?」
「みたいです」

 随分とリアリティーのある人形だ。ここまで精巧だと、いっそ気味が悪い。

「同じサイズならいいって言ってたけど……」
「私も同じくらいのサイズですね」
「あはー。銀木さん、縁起でもない」
「すみません」

 悪びれた風もなく言ってのけた彼女に苦笑する。おかげで銀木の四肢をもいで少女の人形にくっつける、などという想像が浮かびかけた。悪趣味にも程がある。
 その想像を振り払うべく、どうしたものかとウロウロ視線をさまよわせていた有馬は、ふと椅子に目を向けた。一見、ふかふかとした何の変哲もない椅子だ。しかし何かが――入っている?
 不思議に思い、そっと開くと――腕が出てきた。

「う、」

 腕、と大きな声を上げそうになり、とっさに口を閉じる。恐る恐る取り出せば、それは確かに無機質だった。まじまじと見て確信する、これは人形の左腕だ。

「これをくっつけろってことなんかね……?」
「ですが、どうやって?」
「うーん」
「おう、こっち見てくれ」

 ドゥードゥーの声に、有馬と銀木は顔を向ける。彼は作業台の方を探していた。引き出しを開けているらしく、そこからガチャガヤと物を取り出している。

「手術台っぽいとは思ったが……メスと、糸なんかもあるぞ」
「縫合用っすかね」
「これでくっつけることはできそうですね?」

 一緒に覗き込んだ二人は、苦笑気味にうなずき合った。一応どちらも医療に従事する身だ。やってやれないことはない。

「ん? メスは一本足りないようだな……?」

 不思議そうにドゥードゥーが首を傾げる。
 その言葉に、はた、と有馬は気づいた。嫌な予感が膨れ上がる。

「……ドゥードゥーさん」
「ん?」
「メス、とりあえず一本貰っていーっすか?」
「? まあ、いいが……」
「先生、どうしました?」
「いやあ……」

 ドゥードゥーからメスを受け取りながら、有馬はヘラリと笑った。

「……足りない肉切り包丁と、手をつけられた食事と、メスと……って考えたら、少なくとも一人、オレら以外の誰かがいるんじゃねーかなと……そんでその人間は包丁とか持ち歩いてる可能性が高いワケで……まあ、だから、念のため?」

 とはいっても、気休めだ。本当に包丁で襲われたら、こんなメスではひとたまりもない。それでもないよりはマシな気がするし、どこかで役に立つこともあるかもしれない。そんな覚束ない考えで、有馬はメスをポケットにしまいこんだ。すぐ取り出せることを確認し、前に向き直る。

「あとはー……特に何もなさそうですかねぇ?」
「みたいです、ね?」
「それじゃあ、ひとまず人形探しだな」

 現状への理解を一旦諦めた三人は、人形の左腕を作業台に乗せ、恐る恐る部屋を出た。
 悲しいことに、三人は経験として、こういった状況が自分たちの理解を超えていることを知っている。
 ――とにかく今は、無事にこの世界から脱出するため、できることをするしかないのだ。


続く
スポンサーサイト
TRPG | コメント(0) | トラックバック(0)
コメント

管理者のみに表示