例えそれが矛盾だとしても

おこんばんは!
忙しい合間にもちょこちょこポメラさんをいじっているのですが、やっぱり書き方を忘れている気がしてならない今日この頃です。
うーん……昔からこんなものだったでしょうか……。
いい加減明るく楽しい話も書いてあげたいのですが、何だかほの暗いのも楽しくなってしまっていかんですね。

今回は、またもやTRPGネタで申し訳ないのですが。
もはや需要とか何ですかそれ状態なんですが。
ひさっちこと陽雨さんがうちのキャラの有馬君も書いてくれた、『例えそれが狂気だとしても』の有馬君視点です。
長くなりました。へへ。
ひさっち、いつもありがとー!
好き勝手やらせてもらっています。ふへへ。
しかしタイトルはもうちょっと何とかしたかったな。他の単語が出てこなかった……無念……。

陽雨さんのサイトはこちら
http://thefarthestland.xxxxxxxx.jp/index.html

ではでは、よろしければ追記から。


*****


 有馬秀は、日当医科大学附属病院の研修医だ。研修医のため様々な科を回されてはいるが、志望は精神科医である。そしてある程度科を回り切れば、志望の科を占める比率は大きくなってくる。今はちょうどそんな時期でもあった。ちなみによく周囲からは小児科志望だと勘違いされている。ついでに子供たちからは担当医よりも顔と名前を覚えられることもあったりするのだが――それはさておき。
 そんな秀は今日も今日とて業後に病院に呼び出された。入院患者の容態が急変しただの、抜け出して徘徊しているだの、呼び出されるネタには事欠かない。呼び出す方だって、独身の若い研修医に対する遠慮などはもちろんない。

(まー、何とか治まったな~……)

 ふぁぁ、と気の抜けた欠伸を一つかみ殺し、秀はぐいと身体を伸ばした。仕事中はある程度の緊張感があるせいか、筋肉が凝り固まりそうになる。呼び出された案件がようやく一息ついたこともあって、その反動で身体が悲鳴を上げそうだ。

「ん~~……っと?」

 ぐいぐい腕と背中の筋肉を伸ばしていると、ふいに胸ポケットのピッチが鳴った。嫌な予感に秀の表情も硬くなる。――嫌な予感も何も、このピッチで呼び出されるときに良いことがあった試しなんて、ほとんどないのだけれど。

「はい。どうしました?」
『先生、急患です。ヘルプ頼みます』
「ヘルプ?」
『鎮静剤を打とうとしているのですが、暴れていまして……』
「今行きます」

 手短に通話を終え、秀は駆け足で部屋へと向かった。


***


 気を失っていた患者が意識を取り戻したものの、錯乱し、悲鳴を上げながら暴れている。夜間で人手が足りなく慌ただしい中、秀が聞いた情報といえばそれくらいのものだった。そのため患者の名前を知ったのも事が落ち着いてからで、成り行きで家族への説明を任された秀はカルテに目をやり――はて、と首を傾げた。

(伊吹、一羽?)

 ――まさかな。
 友人と同じ名字にその友人の顔が一瞬よぎるものの、世の中には同姓同名の人だっている。名字が同じくらいよくあることだろう。
 そんな風にさほど気に留めず、足早に家族が待っているという待合室まで向かい――秀は一旦動きを止めた。
 そこにいたのは、つい先ほど「まさか」と思考から切り捨てた友人だった。
 隣にいた男性が、秀に気づき立ち上がる。面影があることから父親だろうと見当がついた。父親につられたのだろう、友人――伊吹宙も、ぎこちなく立ち上がる。

(――)

 秀は彼らの前まで歩き、軽く会釈した。へにゃりと笑う。――まずは、仕事だ。

「えー……こんばんは。有馬秀と申します。伊吹一羽さんの容態なんですが……」

 今の彼女の状態をかみ砕いて説明すると、二人は揃って頷きを返してきた。今は薬が効き、部屋でぐっすりと眠っているところまで伝え、最後にまた笑いかける。
 それを聞いて安心したのだろうか、宙が脱力したのが分かった。とっさに声を掛けそうになったが――父親が軽く肩に触れて支えていたようなので、秀はそのまま言葉をつぐんだ。

(……この人が宙のお父さんか)

 失礼にならない程度に目を向ける。心配そうな表情だが、雰囲気から普段は朗らかそうであることが伺えた。先ほども思ったが、面影もある。雰囲気は違うが、ちょっとした仕草が彼らが父子であることを示しているようだ。

「もう遅いですし、なんなら泊まっていきます? 控室もありますので――」
「いや、お気遣いなく先生。お忙しい所有り難う御座いました。……確か、病院からタクシーが出てましたね?」
「ああ、ハイ。タクシーは出てますが……」
「なら、我々は一度タクシーで帰宅します。また朝にでも様子を見にきますよ」
「そう、ですか? 大変じゃぁないですか?」
「いえいえ。そんなに遠くないですし大丈夫ですよ」
「……」

 随分としっかりした人だった。個人的にも心配だったので引き留めたい気持ちもあったが、家の方が落ち着けるというのであればそれを止めるわけにもいかない。そうですか、と秀は軽く引き下がる。それから宙に目を向けた。
 ――何か言うべきだろうか。そんなことも思ったが、ついぞ、言葉は出てこなかった。宙の態度が、何も言うべきではないと告げている。

(……そ、だよなぁ)

 きっと、自分だって、彼の立場なら何も答えられない。

「何かありましたら、こちらに連絡下さい。すぐ出れるようにしておきますんで」
「分かりました。それではお気をつけて」

 最後までしっかりした態度の父親と、どこか心配になる友人の姿を、秀は笑顔で見送った。
 タクシーに乗ってそれも見えなくなると、ふぅ、と息をつく。何だか奇妙な気持ちだった。ぎゅっと何かが縮まるような、はたまた逆に、ぽっかりと何かが空いたような。
 それから院内に戻ると、また他の患者に急変があったのか、妙に空気がバタついていた。そんな中、背後で響く、「あー!」とがなった声。ビックリして振り向けば、自分と同じ研修医の一人が困ったような顔をしていた。電話を片手に苛立ちと困惑を器用に混ぜ込んでいる。なんて柔軟な表情筋だろうか。

「どしたん?」
「いや、明日当番の奴が急に来れなくなって……」
「明日? 朝から?」
「そう……急なんだよ本当にもー! 今からじゃ誰も捕まんねーよ!」

 言いながらガリガリと頭を掻きむしる相手に苦笑する。それから特に考える間もなく秀は言葉を発していた。

「オレ替わろっか?」
「……は? え、ありがたいけどお前、明日非番じゃ? 言っとくけど朝からだぞ? 今日も急な呼び出しくらってんのに」
「んー、まあ……大丈夫っしょ、若いし?」
「まーそうだな、それだけが取り柄だもんな」
「うはは、ヒデェ」
「でも、本当にいいのかよ」
「おー。その代わり今度奢れよー」
「キャラメルでいいか?」
「やっす!」

 なんやかんやと笑い合う。この病院の同期は比較的みんなノリが良くて助かる。気安い掛け合いは日常茶飯事だ。
 いつものように笑った秀は、ヒラリと彼に手を振り、今度こそ病院を離れた。


***


 有馬秀には、精神病を患った祖父がいる。
 彼の病気が発症したのがいつ頃だったか、正確なことは覚えていない。だが、秀が中学の頃にはいよいよ症状が悪化し、他人に危害を加えることも増えてしまった。幸い祖父は筋力が弱っていたので周囲に怪我などはなかったが、何せ、いつどこで、何をしでかすか分からない。そんな不安や危機感は思った以上に消耗するものだったのかもしれない。家族の疲労や警戒はピークに達していた。特に、普段家にいて祖父の面倒を見ていた母の負担は大きかったのだろう。

 だから――。

 思考に耽りそうになり、秀は緩く首を振った。布団に潜り込み、目を閉じる。

 ――やめよう。
 今更考えたって仕方ないことだ。それに今、祖父の病状は比較的安定している。グループホームに入り、通院を続けている日々だが、それなりに秀との会話だって成り立っている。秀が心配することなど何もない。そもそも何故、今こんなことを思い出すのか。いくら友人が同じような境遇であったことを知ったからといって、比較するだなんて失礼な話だ。
 ただ。

(……お宙のとこは、……支え合ってんだなぁ)

 そんなことを、ぼんやりと思った。


******


 翌日、朝から忙しなく駆り出されていた秀は昼を過ぎようやく一息ついた。怒濤だった。簡単に引き受けたものの、後悔しそうになるほどに怒濤だった。
 それでも大きな問題はなく、無事仕事をこなせたのは僥倖だったのだろう。そのことに胸を撫で下ろしながら、秀はウロウロと院内を歩き回り――見知った後ろ姿を見つけ、思わず声を掛けた。

「お宙!」
「……」

 反応は、遅い。しかし、確かに、ゆっくりと振り向いてくる。

「……秀……?」
「よっす! お宙大丈夫かー? きちんと寝れたのかー?」

 訝しげな表情の宙に笑いかけ、秀はひょいと近づいた。彼の顔色は随分と悪い。ただでさえ普段は愛想がないというのに――話せばよく笑うし面白いのだが――おかげで怖さが倍増されている。もったいない。

「……ああ……まあ。……てか、お前何でいるんだよ?」
「へ? 何でって?」
「勤務時間的におかしいだろ」
「あ――っはっは……そりゃさー、ほら、まー色々な事情があるわけでしてぇー?」
「……。まあいいけど。それじゃあな」

 きっぱりと言い捨てられる。にべもない。ある意味いつものことだけれど。

「って、待って待って!? ……お宙、飯まだじゃね? 一緒に食べ」
「食べない」
「気まぐれぇええ!? オレ断ったことねーのに!!」
「……」
「なっ!」
「……ははっ」
「??」
「やっぱ一人で食うわ」
「ええええっ!?」

 再び背を向けられ、とっさに追いかける。その足取りはふわふわと覚束ない。全くもって彼らしくないその様子が見ていられなかった。
 今にもどこかに、誰かにぶつかりそうな――。

「宙! 前! 前!!」
「ッ――」

 彼の前を歩く老人に気づき、秀は思い切り宙を引き寄せた。宙は抵抗する間もなくよろめいてくる。
 宙の後ろからひょいと顔を覗かせれば、老人が驚いたように目を丸くしていた。
 へらり、笑う。

「あはー。おばーちゃんごめんね!」
「いやいや……大丈夫かい?」
「大丈夫っすよー! おばーちゃんもケガはない?」
「ああ、問題ないよ」
「それなら良かった。それじゃあお気をつけてっ」

 にこやかに声を掛ければ、老人はペコリと頭を下げて向こうに歩いて行った。その間も宙はぼんやりとしたままだ。ぶつかりそうだったことは認識しているようだが、恐らく自分の今のやり取りもあまり耳に入っていない。心ここにあらず、だろうか。

「ったくもー! 全然大丈夫じゃなくねー? ってかお宙目の下隈できてっから!! 怖ぇーからな!!」
「マジか。どーりで目がしぱしぱする」
「あのなぁー……。……うしっ。わかった!」
「??」
「お宙はそこの談話室いて! すぐ戻っから!」
「…………は?」

 とりあえず放っておくことはできず、半ば無理矢理言い聞かせると、秀はくるりと踵を返して走り出した。


***


 時々看護師に注意されつつもバタバタと慌ただしく戻ると――「先生、あまり走らないでください」「すんませーん!」「ほぼ夜勤明けみたいなものなのに元気ですね」「あはー」――宙は言われた通り、談話室にいた。ぼんやりしている彼の前まで歩き、買ってきたパンや飲み物の袋をガサリと差し出す。するとそれを見た宙は苦笑した。

「わざわざ買ってきたのかよ」
「わざわざそんな状態で食べに行くよかマシですぅー」
「……その言い方腹立つ」
「ヒッデ! いーじゃん! 可愛げあるっしょ!」
「……たまに優がさ」
「うん?」
「真似するんだよそれ……」
「ぶっは! マジかぁー! まあまあそんなことより、好きなの食っていいからな!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「食べよう!?」
「いやまぁ、折角だし食うけど」
「黙るなってばそれじゃあ!?」
「あー……ハイハイハイハイ」
「いつもよりハイの量が多い!?」
「知るかっ」

 思わず大袈裟に反応してしまえば、宙が苦笑いで返してくる。いつものことといえばいつものことだ。ただやはり、キレがないといえばないけれど。
 本当はそっとしておいた方がいいのかもしれない。そう思わないでもなかったが、秀はあえていつものノリで笑みを取り繕った。適当にパンを選び彼の前に並べていく。
 ――だって、同情なんて、自分はされたくなかった。

「お宙! ほら、選べないならオレが選んじまうぞーっ」
「……」
「……。……えっと、食わないと元気出ねーし、なっ?」
「……秀」
「ん!? ……どうしたん? やっぱ自分で選ぶか?」

 手を止め様子を伺うが、宙は構わず口を開いた。どうしたことだろう、どこか落ち着いた口調で。

「……俺の母親見ただろ……」
「へっ。……、……ハイ」
「……お前にこんなこと言うのも変だけど」
「……うん?」
「精神が異常だろうと……あの人は俺の大事な母親なんだ」
「……」
「お前、担当じゃないけど、もし診ることがあったら宜しく頼むな……」

 そう言う彼は、どこか、弱々しい、小さな子供のようで。

「……、おう……」

 茶化すことも気の利いたことも言えないまま、ただ小さく頷いた自分に、彼はフッと口元を緩めた。


***


 その後、パンを適当に選んで談話室を出て行った宙を秀はぼんやりと見送った。
 いつもの彼は、時にマイペースで、案外ノリが良い。短気なところもあるが、少なくとも秀よりずっとしっかりしているように見える。
 そんな彼があそこまで弱ってしまうのは、意外でもあり――しかし、ストンと納得する部分もあった。

(お母さんの昨日の状態見る限り、ケッコー色んなもの併発してるっぽかったしな……)

 一日や二日だけの問題ではない。一年や二年というわけでもないだろう。恐らく、長い間ずっとそうだったのだ。
 自分の家族が、精神を病み、まるで別人のようになってしまう恐怖。それでも大事な人であることに変わりはなく、だからこそ見捨てられない葛藤。しかし、それでいて自分にできることなどほとんどないのだ。ただ傍にいることしかできない。それは、どれだけの消耗を強いられる環境なのだろう。いっそ嫌いになって離れることができたら、どれだけ楽だったか。
 秀にだって、覚えがある。今でこそ病状が落ち着いている祖父だが、本当にひどかったときは秀も家族も途方に暮れていた。まるで果てのない、あの覚束ない感覚は、きっと身近な人間を苦しめる。
 だから。

 ――今、祖父があんな状態になっていなくて良かった。なんて。

 一瞬でも思いかけたことに愕然とした。
 秀はとっさに口を覆う。ヒヤリとしたものが心臓に流れ込む。嫌な動悸が止まらない。
 自分が、信じられない。

(サイテーだ……っ)

 医者としても――友人としても。今、自分は、ひどいことを考えたのではないか。相手の不幸を比較して、少なからずとも安堵を抱きそうになった。
 違う。そんなつもりは。そんなはずが。
 ――本当に?

「秀、……有馬先生?」

 ふいに背後から声を掛けられ、秀は勢い良く振り返った。その勢いに驚いたのだろう、ドアの前に立っていた銀木優がぱちくりと瞬いている。

「……あ、……銀木さん」
「先生……どうしました? 顔色、悪いみたいですけど」
「え? あ、いや! 大丈夫! 何でもない!」
「でも……」
「あは。ごめん、寝不足なんだわ」
「……」
「銀木さん」
「?」

 看護師である彼女は、秀の同期でもあり、宙の幼馴染みでもある。そして二人の仲がとても良いことを秀は知っている。
 彼女が来てくれたことにひっそりと感謝し、秀はヘラリと笑った。

「さっきまで、伊吹さんがいたんだよね」
「……宙が?」
「あの調子じゃ、まだすぐ近くにいると思う。危なっかしいからさ。伊吹さんのこと、見てきてあげてくんねーかな」
「……分かりました」
「頼んだー」

 秀の様子を怪訝そうに見てきた彼女だが、昨日院内にいた彼女は宙の母親が運び込まれたことも知っている。そのためそちらが優先されるべきだと判断したらしく、素早く一つ頷いた。彼女は決めたら早い。くるりと踵を返す。
 彼女がパタパタと走っていくのを見届け、秀は小さく息をついた。

(……優と宙って呼んだ方が良かったかなぁー)

 どこか麻痺しかけた頭で思い、そのまま目を閉じる。――きっちりとしたものではないが、公私を分けるために秀は彼らの呼び名を医者の立場と友人の立場で使い分けている。今は何となく医者として患者の対応をお願いしたような形になってしまったけれど。

(まー、何でもいっか……)

 恐らく、優が宙のところへ行ったなら、宙は大丈夫だろう。漠然とした確信に苦笑する。あれであの二人は付き合っていないというのだからおかしなものだ。野暮なことを言うつもりもないけれど。

(……そもそも心配とかする資格あんのか、オレ)

 ふつり、と再び思考が沈む。
 医者としては、担当ではないどころか、まだ自分はただの研修医だ。友人としてだって、先ほどの嫌な感覚がこびりついて離れない。それに、これは先ほども感じた同情ではないのか。それは自分が一番与えられたくなかったものではなかったか。思考がグルグルと回ってしまって分からない。何だか妙に不安な心地だった。自分らしくもない。一体どうしてしまったというのか。

「……ん?」

 ふいに電話が鳴り、秀はのろのろとそれを取り出した。ディスプレイに表示された名前に瞬く。それは妹のものだった。

「……もしもし? しまちゃん?」
『兄さん。突然すみません』
「あぁいや、別に……それは大丈夫だケド、何かあった?」
『いえ。今ならお昼休憩でしょうし、ちょっと様子を聞きたくなっただけです。お昼はきちんと食べました?』

 ゆったりとした落ち着いた声音に、秀は無意識に肩の力を抜いた。残っていたパンに目を向け、へにゃりと笑う。

「あー、うん。さっきまでお宙がいてさ。とりあえずパン買ったからそれ食おうかなって」
『伊吹さんが? そちらに?』
「まー、家庭の事情ってやつだからあんま言えないケド。ごめんな」
『いえ。だけど少し心配ですね』
「心配?」
『病院にいらしたのでしょう?』
「うん……?」
『ご自身のことであれ、お見舞いであれ、妊娠出産以外でご友人が病院にいるというのはやはり心配になるかと』
「……、そっか」
『兄さん?』

 ふは、と思わず笑い声が漏れた。明確な形のあるものではないが、どこかで何かが、ストンと落ちたような気がする。
 ――これだから、この妹は。兄として世界中に自慢してやりたい。本気でそう思うほど、彼女はいつもさりげなく秀をすくい上げてくれる。きっと彼女は、そんなこと知らないだろうけれど。

「心配しても、いいんだな」
『……兄さん、何かありました?』
「や、大丈夫。……なあしまちゃん、こんなこと言ったらお宙に怒られるかもだケド……あいつ、スゲー隈出来てたしフラフラしてたし、食欲もなさそうでさ」
『まあ……伊吹さんらしくないですね』
「心配だよな?」
『はい』
「オッケーオッケー、分かった! ありがとしまちゃん!」
『? 大丈夫なら、良かったです』
「おう、また連絡するな」
『はい。兄さんも無理はしないでくださいね』
「ん、さんきゅ」

 短くやり取りを済ませ、秀は顔を上げた。時計を見る。――休憩時間が終わるまで残り少しだ。
 とりあえず、難しく考えることはやめた。友人がいつもと違って弱っているのだから、心配することは何もおかしくなんてないのだ。気に掛けてしまうことは、きっと自然なことだ。それなら、それでいい。それだけでいい。
 まずはやはり、駆けつけてもう一つくらいパンを押しつけてやろう。今回ばかりは希少価値のあるメロンパンをサービスだ。もし優とイチャついているようなら写メって後で存分にからかってやろうではないか。さすがにその場で邪魔はしないでおくので、むしろ褒めてもらわねばなるまい。これでもそれなりに空気は読むのである。
 ふふ、と柔らかく笑いをこぼし、秀は軽い足取りで部屋を出た。
 それが正しいことかどうかなんて分からないけれど――今は、それでいい。


*****


陽雨さん作『例えそれが狂気だとしても』の有馬君視点でした。
彼はたくさんの自己矛盾を抱えているんだと思います。
自分の過去には同情されたくなくて、別に普通じゃんと自分にも周囲にも思わせて、だけど似た境遇の友人を見たらやっぱり大変そうだし心配せずにはいられなくて。
一方で、自分と違って家族がバラバラにならず、支え合っているのであろう宙君たちを羨む気持ちもあって。
だけどあまり有馬君自身には自覚もなくて。
普段はなんてことないんですが、自己矛盾がぶつかり合ってくると、やっぱり少し不安定かもしれませんね。
でもまあ、しまちゃんがさらっと支えてくれるので(笑)
「もういいよ! お宙友達だし! 心配だし! 構えコノヤロー!」と開き直った有馬君でしたとさ。
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二つ名:囁(アビス)
あだ名:エゴイスティックスケコマシ
四字熟語:好色生活
(※二つ名メーカー、脳内メーカー等による結果)
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