07:手を繋いで

さすがに時間がかかってしまった……。

<お題一覧>
Type : 1

01:晴れた日に(済)
02:手(済)
03:風の吹く場所
04:白い花
05:綺麗なもの(済)
06:笑顔
07:手を繋いで(済)
08:うた(漢字は自由)
例 : 歌、唄、詩等
09:おひるごはん
10:海
11:同じ空の下
12:安らぐ場所
13:心音
14:手紙
15:風に吹かれて
16:夕焼け(済)
17:昼間の森(済)
18:親友
19:昼寝(済)
20:おやすみ

<お題配布場所>
site name : 追憶の苑

※黒バス
※青峰、高尾。義兄弟パロ。年齢操作。


07:手を繋いで


 夏の熱気と、のし掛かる重みと。そういった苦しさにうっすらと目を開けた青峰大輝は、目の前にぼんやりと人の頭が見えてぎょっと身体を強張らせた。これが金縛りというやつだろうか、と思い心臓が跳ねる。
 しかしよくよく見ればその顔は見覚えのあるもので。

「……高尾?」

 のっそりと体重を掛けていたのは、青峰和成――まだ小学生の義理の弟だった。自分とは似ていない黒髪が暗闇に溶け込んでいて、この時間帯ではさすがに存在感がぼやけている。普段ならやかましいその口を閉ざしているから尚更だ。

「どうした、高尾」
「……兄ちゃん」

 今では「青峰」だが、青峰はあえて、彼を旧姓の「高尾」と呼んでいる。未だに「青峰」には慣れないらしく、それならやりやすい方でいいだろうという単純な思考の結果だ。和成もそれで納得しているらしいのだから問題はない。彼はこちらのことを「兄ちゃん」と呼ぶのにようやく慣れてきたくらいだろうか。
 ――それは、そうだろう。小学生にとって親の再婚なんて、理解できない歳でもなければ、割り切れる歳でもない。それは中学生である青峰にとってもそう変わらないことかもしれないが、青峰は難しく考えることが苦手なのだ。自分にデメリットがあるわけでもないし、親は幸せそうだし、いきなりできた弟はやかましいこともあるけれど退屈しのぎにはなりそうだし、だからまあ、いいかと思う。
 さておき、和成である。自分に体重をかけてくるのはいくら小さい彼といえども重たいのでやめてほしい。腹が潰れる。このままだと内蔵が飛び出る。内蔵がどこにあるのかはよく分からないけれど。

「高尾、とりあえずどけ。重い」
「……兄ちゃん、暗い」
「は?」

 トーンの低い声で言われたことに目を丸くする。ええと。

「……小便か?」

 言えば、少し戸惑った空気の後、こっくりとうなずいてくる。カハッと笑いが漏れた。なんやかんやしっかり者だとは思っていたものの。

「何だよ怖ぇーのかよ」
「ち、ちがうっ」
「違わねーだろ。へいへい。とりあえずさっさと済ませて寝るぞ……あん?」

 押しのけて廊下の電気を点けようとし――和成から短い悲鳴が上がったが気にしないでおく――青峰は数度瞬いた。カチカチと音がするだけで一向に電気の点く気配がない。廊下は暗いままだ。

「停電か?」
「だから言ったじゃん、暗いって」
「あー……」

 怖いではなく、暗い。なるほど、彼にとっては大きな違いらしい。青峰にとってはどうでもいいことだが。

「まあ朝には直ってんだろ。仕方ねーからそのまま行ってこいよ」
「えっ……」
「あ? やっぱ怖ぇーのか?」
「だからちがうって言ってんだろ! 兄ちゃんの馬鹿! 馬鹿兄貴っ」
「だぁ! 大声出すな、怒られんだろ! だったら……」

 そこで青峰は気づいた。

「……おめー、もしかして見えてねぇのか?」
「暗いんだもんっ」
「……あー」

 頬を膨らませてソッポを向く和成を見やり、がしがしと頭をかく。よくは分からないが、極端に暗闇に弱い人間がいるらしいというのは、何となく青峰も知っている。鳥目というのだったろうか。
 青峰から押しのけられた和成は座り込んだままオロオロと視線を彷徨わせている。恐らく青峰がどこにいるのか声の方角程度にしか分かっていないのだ。その不安そうな表情には見覚えがあった。例えばそれは、初対面の日の夜。親たちが二人で出かけ、青峰と二人きりになった日。どう対応していいか持て余していた青峰に自ら話しかけてきたときのような。
 ――そういえば、彼がこうして夜中に起こしに来たのは初めてだ。もちろん、今まで一度も夜中に目を覚まさなかっただけかもしれない。けれどもし……。
 カハッと思わずまた笑う。不安そうにしていた表情の彼の頭を鷲掴み、ぐしゃぐしゃと撫でてやった。力加減なんて知ったことか。

「ぎゃっ、え、ちょ、何!?」
「上等だクソガキ、可愛いとこあんじゃねぇか」
「へっ? え?」
「ほら、手」
「……兄ちゃん?」
「暗いんだろ。トイレまで手繋いでやっから」

 おら、とぶっきらぼうに立たせると、つられるように立ち上がった和成はまじまじと繋がれた手を見ていた。何だよ、と言えば、へへ、と笑う。それはどこか泣き笑いのように見えて、けれど暗がりだから、気のせいだということにしてやった。


***


「なあなあ兄ちゃん、これも買おーぜ!」
「ばっか、予算オーバーだっての」
「兄ちゃんがエロ本買わなきゃいいんだろー」
「ばっ、言うなカズ! ここにテツがいたら俺が死んでるところだぞ!」
「兄ちゃんは一回てっちゃんに煩悩消し飛ばしてもらった方がいいんじゃね?」
「お前こそ先輩って呼べってまた注意されんぞ」
「てっちゃんって呼びやすいのになー。それにてっちゃん威張んないから、先輩って感じとはなんか違うっていうか」
「あいつ、カズには甘いからなぁ……」
「それより兄ちゃん、これ! カードついてくんの!」
「はいはいまた今度なー」
「あー! オウボー!」

 ぎゃあぎゃあとやかましく掛け合いをしながらおつかいを済ませる。――あれから年月が経ち、随分と遠慮がなくなったなと思う。今では和成も中学の制服を着ているのだから成長とは早いものだ。そんなことを言えば黄瀬辺りが「青峰っちジジくせーっスよ」と笑ってくるのだろうが。よし殴ろう。
 スーパーを出ると外はもう随分と暗かった。和成がここぞとばかりにじゃれついてくる。

「兄ちゃん、オレも荷物持つ」
「うるせえ生意気」
「ぶっ。何だよ-! オレだってほら、力こぶ! てっちゃんよりあるんだぜ!」
「それ自慢になんねーよ。力こぶってのはこうだろ」
「ほわああああ兄ちゃんすげえええええ」
「だっろ-?」

 ケケ、と笑うと、和成はぶんぶんと首を縦に振ってうなずいた。遠慮がなくなり生意気になったが、変なところでやたらと素直な奴だ。そのうえ人懐っこい。青峰が絆されたのは致し方ないと自分でも思う。

「ん」
「?」
「カズはこっちだろ」
「え」

 荷物を乱暴に左手で持ち、右手を差し出せば、和成はきょとんと瞬いた。本当に意味が分かっていないようで、小首を傾げている。そんな反応が何だか面白く、青峰はニヤニヤとさらに笑みを深めてやった。

「暗いもんな。だから手、繋いでやるよ」
「……? ……、……っ!?」

 ぼっと音がする勢いで彼の顔が赤くなる。青峰のように日焼けはしていないので分かりやすい。

「ばっ、あ、あれは小さかったから! 今はそんなんでもねーし! だからヘーキだし!」
「今でもちっちぇーだろ。制服だってブカブカじゃねーか」
「う、うっさい! うっさい! これから伸びるんだよバカ!」
「ほらほら、怖くないようにお兄様が手を繋いでやるって言ってんだろ……いってぇ!」
「兄ちゃんのバカ! バーカ! エロ助!」
「さつきみてーなこと言ってんじゃねぇよ!」
「さっちゃんにも今日買った本のこと言いふらしてやるんだからなー!」
「おいそれはまじでやめろ!」

 盛大に喚き散らして逃げようとするのを慌てて捕まえる。この弟の人脈はなんというか色んな意味で恐ろしい。何せ青峰の周りの人間を大抵味方につけているのだ。喧嘩をしたとなれば明らかに青峰に分が悪くなる。――まあ、彼と本気の喧嘩をしようとは別に思わないけれど。

「おい、こら、落ち着けカズ」
「うー」
「冗談だっての。……そうじゃなくて、だから、あー」
「何だよ」
「俺が手を繋いでほしいってことで」

 言えば、ぱちくりと瞬いた和成は――やがてくすぐったそうに笑う。どうもこの弟は昔から世話好きの節があるので、こういう言い方には弱いのだ。

「……そんなら仕方ないな。兄ちゃんすぐフラフラすっから捕まえといてやんよ」
「おー、頼むわ」
「ん」

 そうして、手を繋いで。
 表情豊かに色んなことを話す弟に相づちを打ちながら、今日も青峰は、のんびり帰り道を歩いて行くのだった。



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