【わっか】損な人

追記に、わっか日和の小話。




******



「おーう、待ったかー?」

 そんな豪快な声が聞こえ、柱に背を預けていた岡崎徹はきょろりと周りを見回した。どどどと音が聞こえそうな勢いで走ってくる男に苦笑する。

「いえ、てか樹がまだっす」
「最後じゃなかったか、良かったぜ。じゃあもうちょい待つか! ――お、それは?」
「例の新刊ですよ、しかもフラゲ」
「マジで!? お前すげぇな! めっちゃ続き気になってたんだぜーっ」
「もうすぐ読み終わるからまた回しますよー」
「よっしゃ!」

 のほほんとした会話。あくまでも内容は、漫画を楽しみにしている男二人の、何ら害のない会話。
 しかし。

(視線がすげぇ)

 徹は少しばかりひきつった笑みを浮かべ、目の前の男、碇真珠郎を見やった。
 知り合ったのはちょっとした繋がりだった。徹の幼なじみである日高樹が懐いている「師匠」と、この真珠郎という男が古くからの友人だったのだ。言ってしまえば友達の友達の友達といったところだろうか。そう聞くと随分遠い関係のようだが、漫画などの趣味でなかなか話が盛り上がり、今ではもはや「遊び友達」に近い感覚だ。
 しかしやはり周りからは不思議な光景に見えるらしい。なにせ高校生の徹と違い、彼はすでに成人している。さらに身長が180を超える上に派手な髪型。そして何より――ぶっちゃけたことを言えば、怖い。見た目がまず、怖い。派手な外見と厳つい形相がベストマッチしてしまっている。
 そんなわけで彼といると、ちらちらと遠慮がちな視線が絶えないのであった。迫力があるため興味半分で近寄ってくる輩もほとんどいないが、それにしたってあまり見られるというのは居心地のいいものではない。

「てか、今日はマジで奢ってくれるんすか?」
「おー、今は余裕あるしな! カラオケくらいいいってことよ!」
「真珠郎さんマジ神。天使」
「よせよせ、照れるだろ」

 真顔で褒め讃えれば、本当に照れたらしくガリガリと頭を叩く真珠郎。――気は優しくて力持ち。彼はそんな言葉が似合う男だ。顔はめちゃくちゃ怖いが、こうして自分たちには随分と優しくしてくれる。

「お、あっこに見えんの樹ちゃんじゃねーか?」
「ようやく来たか……って」

 真珠郎の指差す方に視線をやり、思わず顔をしかめる。確かに歩いてくるのは二人が待っていた人物、日高樹のようだった。小さい背丈なのに元気に溢れた彼女は不思議と目に留まりやすい。
 しかし今、彼女は一人ではなかった。後ろに二人ほど男がついてきている。それもあまり平和ではない空気を伴って。

「だからっ、しつこいのだよ!」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
「ぶつかったのはそっちだしさぁ」
「それはもう謝ったじゃんか、もー!」

 ――。
 徹はため息をつく。またか。またなのか。
 彼女は何かとトラブルメイカーで、よく色々なところに(ある意味文字通り)ぶつかっては面倒くさい相手に絡まれる。なまじ気が強いものだから互いに引けなくなることもしょっちゅうだ。徹も何度巻き込まれたことか。
 さて、どうしたものか。放っておくと問題が膨れ上がりかねないので早々と何とかしたいところだが――。
 そこで樹がこちらに気づいた。パッと表情を明るくさせる。

「とーる! ジュロー!」
「おう、チビ」
「チビじゃないっ!」
「……」
「ジュロー?」

 樹がきょとんと首を傾げる。
 そこであっさりと忘れ去られそうになっていた男たちがムッとした気配を見せた。樹の肩に手を置き、

「おい、無視すんなって……、!?」

 びくりと、それはそれはわかりやすい勢いで固まる男たち。
 面倒くさいなと顔をしかめていた徹も驚いたほどだ。
 そして。

「す、すんませんっした!」
「失礼しましたー!」

 腰を90度に曲げるやいなや、二人は跳ねるようにその場を去っていった。樹も徹もぽかんとしてそれを見送る。それから徹は始終黙ったままだった真珠郎を見やり――。

(怖えっ!)

 思わず内心で悲鳴を上げてしまった。
 ただでさえ怖い顔に眉間が寄り、そこから表情が微動だにしていない。怒っている。何やらものすごく怒っている。
 しかしオロオロしていると、ふいに真珠郎は表情を崩した。彼はだはー、と大きく息をつき、額の汗をぬぐう。

「よくわかんねーけどいなくなってくれて良かったなぁ~……どうすりゃいいかわかんなくて、すっげービビっちまった」
「いや」

 あっちがあなたにビビったんでしょうよ、と。
 言いかけて徹は口をつぐむ。そのまま言うのは何となく失礼だ。とはいえ事実に間違いないのだろうが。
 すると樹がケタケタと笑い出した。それはもう嬉しそうに、楽しそうに。

「ジュローもとーるも、そうやって並んでると迫力あるねぇ」
「……は?」
「さっきの二人もビビってたのだよっ。ざまーみろなのデス」
「って俺もかよ!?」
「とーるはガラの悪さを自覚した方がいいのだよ」
「うっせぇ」

 真珠郎に思ったことを、まさか自分まで思われていただなんて。
 複雑な気持ちで再び顔をしかめていると、真珠郎がばしばしと背中を叩いてきた。

「そんじゃ、遊ぶか!」
「おー!」
「……っす」

 真珠郎の明るく気さくな性格を知っている身としては、外見だけで怖がられているのは損のようにも思うのだが――そして自分も似たようなことを思われているらしいというのが若干不満でもあるのだが――気にしたふうでもない彼と樹の様子に、まあいいか、と徹も思うのだった。

【損な人】


**********


この後さっちゃんと合流して「この人可愛いのにめっちゃ怖いんだけど…この人も損だよな…」とか思ってればいいんじゃないですかね←
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