今日は久しぶりに定時で帰れた気がします。
創作したいという気持ちはもちろんあるんですが、それ以上にしっかり寝たいという欲求が強い気ががが。
も、もうあずささん若くないですん……。

そして以下にまた没ネタの続きを載せておきますが、

没ネタのくせに長くね?←

いや、だからこそ勿体ない気がして今載せちゃってるんですけど……ハハハ。
仕方ねぇなぁ、付き合ってやんよ、没ネタ食っても胃は丈夫だから大丈夫だぜ、という方のみどうぞ(´∀`)



※没ネタ
※そのため中途半端なところで続かない
※分かりにくい
※一応、倭鏡伝
※時間軸が何故か1年後(春樹中2、大樹中1)

↓今まで↓

【0】

【1】

【2】



*****


 現場といっても元々近所の森なので、少女と春樹はすぐに目的地へ辿り着いた。
 大樹と違ってそうアクティブとは言えない春樹は、滅多に自然の中で遊ぶことなどない。
 よって近所といえども物珍しさが勝った。
 火事のせいで荒れてはいるが、全焼したわけではないので木々が生い茂り、今までいた住宅街よりはずっと涼しい。

「あの、どこまで行くつもりですか?」

 ずんずんと先へ進んでいく少女の背に遠慮がちな声をかける。
 不審さは拭えなかったが、自己紹介もないまま一緒にいるのも奇妙な気がして仕方なかったのだ。
 こちらから声をかけることで主導権を握れないかと思ったからでもある。
 迷いのない足取りに、単に行き先が気になったからでもある。

 そんな春樹の思惑を知ってか知らずか、振り返った少女はきょとんと目を丸くする。
 どうにもわざとらしい。さらに加えれば白々しい。

「もう少し先かな。疲れた?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
「せっかくだし話しながら進みましょうか」

 微笑んだ少女は少しだけ歩を緩める。

「まずは倭鏡についてね。これは本で知ったことなんだけど――」
「本?」
「えぇと……父が色々な研究をしていて、かなりの本が家にあるのよ。それこそ無差別なんじゃないかってくらい様々な本がね。私も本を読むのは好きだからこっそり忍び込んでは物色してたんだけど……その中に倭鏡に関する記述があって、それで何となく知った感じ。倭鏡については君の方が詳しいんじゃないかな。ね、日向春樹くん?」

 ――ぴたりと足が止まった。

 春樹はじっと少女を見つめる。
 かろうじて睨むには至らなかった。どこかでそれは失礼だと自制心が働いたのだ。

「……何で僕の名前を?」
「だから本を読んで色々知ってるんだってばー」

 ヒラヒラと手を振る少女からは悪気も他意も感じられない。

 ――信じていいのだろうか?

 春樹は申し訳程度に息を吐いた。
 再びゆっくりと少女の後ろへ続く。
 一定の距離は空けたままだったが、少女も気にした様子なく歩みを再開させた。

 枯れつつある草の香りを吸い込み、少女は朗々と語る。

「……元々、日本と倭鏡は一つだった。ううん、正確には倭鏡なんて存在しなかった。ただ、どれほど昔のことなのかは分からないけど……異変が訪れた」

 びしりと指を突きつけてくる。近い。

「異能を持つ者が現れたの」
「…………」
「その能力は千差万別。中には無害なものもあったのかもね。けどそれは関係ない、その他大勢から見れば異常なことに変わりはないんだから。で、ある程度異能者が出てきた頃には異能者は自らを優位な者であるとし、無能な者と共にあることを許さず、無能者を追いやろうとした。だけどその時点では無能者の数が圧倒的に多かった。異能者はそれでも勝算があったのかもしれないけど……結果として、異能者らは多くの無能者たちによって別の世界に封じ込められた。そのために作り出された別の世界というのが倭鏡。こうしてこの世界に異能者は消え、ふつうの人たちは今の日本を作り上げていきました。めでたしめでたし。――ごくわずかに残された文献にはこんな風に書かれてたなぁ」
「そうですか」
「反応薄!?」

 飛び跳ね、音を立てて数歩後退る。
 その大袈裟な動きは大樹を思い出すのでやめてほしい。あんなに騒がしい人物はそう多くなくていい。

「信じないのっ?」
「僕に言われましても……信じているんですか?」

 倭鏡の人間である春樹にとっては、信じる・信じないの問題ではない。
 それより少女の反応の方が不思議だった。
 ただの神話だと、物語だと、そう思うのが自然な話だ。
 そもそも目にすることも耳にすることも滅多にないだろうが、もし知ったとして、それが史実だと考える人は明らかに少ない。
 それなのにこの少女はまるで見てきたかのような口ぶりで語り、疑った様子を微塵も見せない。どこまでも奇妙である。

 尋ねた春樹に、少女は思いがけず微笑んだ。
 それは今までの明るい笑みでなく、どこか苦笑じみた、なり損ないの笑顔。

「うん、まあ。本にはそうあるからね?」

 ひゃひゃひゃ、と今度はあっけらかんと笑う。
 表情の落差が気になったがあえて言及しなかった。
 この調子なら誤魔化されるだろうし、春樹は女性の内面にやすやすと踏み込んでいけるほど図太くもなれない。

「……えーと。一ついいですか?」
「どうぞどうぞ」
「その倭鏡の話と、今起きている神隠しに何の関係が?」
「いいところを突くねぇ!」

 人差し指を鼻に突きつけ、ぐるりと回転。
 恐らく回転に意味はない。それにしてもいちいちテンションが高い。

「ふふふ、問題はそこなのだよワシントン君」
「ワトソンでは」
「細かいなあ。進んで毛根を死滅させようとする君はマゾと見た」

 失礼極まりないあなたはサドですか。

 そう続けようとしてやめる。
 キリがないし何と返ってくるか分からない。
 確実なのは、続ければ続けるほど本当に毛根が死滅しかねないという危惧だけだ。

 春樹の胸中をよそに少女は足を速めた。
 それは軽やかな足取りで、春樹も慌ててついていく。
 気づけば小さな洞穴が見えた。
 人が出入りしているのか、足場は案外安定している。
 薄暗さが不気味ではあるが比較的中まで光は届く。

 少女は迷うことなく洞穴の中へと足を踏み入れた。
 数歩遅れて春樹も踏み込む。
 しかしいよいよ胡散臭くなってきた。こんなところに何があるというのか。

「春樹くんはさぁ」

 前を歩いていた少女は静かに足を止める。
 若干エコーのかかったような声に、春樹は窺うような目で答える。

「はい」
「共鳴って、知ってるかな?」
「――え」

 こちらを振り返った少女の背後に見えたのは、一枚の鏡。

「……鏡? こんなところに?」

 マンホールほどあるだろうか。綺麗な円の形をした鏡であった。
 土に埋め込むように設置され、その枠組みは少しだけ錆びている。
 薄暗い場所のため、自身を映すソレはどこかしら不気味に見えた。
 隣に映る少女の表情は口元が緩んでいる。

「……もしかして」

 零れた言葉は無意識。

 共鳴。
 ごく一般には、ある物体の振動エネルギーが別の物体に移る現象とされる。
 ある意味ここで少女が発言した「共鳴」もそれと変わりない。
 問題はその物体が日本の鏡と倭鏡の鏡を指すという点だろうか。

 倭鏡はいわば日本のコピー。
 鏡に映された世界。
 さらに鏡は二つの世界を繋ぐ入り口になりうるものだ。
 何かの弾みで互いに呼び合い、道が拓ける――滅多にあることではないが、そのことを倭鏡では「共鳴」と言った。

「…………」
「おや」
「…………」
「春樹くん?」
「――え、」
「ん?」
「えええええええっ!!」

 そんな! そんなまさか!?

 まだ明らかにはなっていない。
 しかしもし、この鏡が共鳴しているとしたら。倭鏡のどこかに繋がっているとしたら!

 春樹は動揺した。
 それはもうあからさまに精一杯に出来る限りに動揺した。
 思わず少女の両肩をつかみ勢いよく揺さぶりをかけてしまう。

「そ、そそそれって! 今行方不明になっている人は倭鏡にいるかもしれないってことじゃないですか!?」
「そそそそうねぇ」
「しかも、しかもですよ! 共鳴を止めなければさらに倭鏡に行っちゃう人がいるかもしれないってことじゃないですかっ!」
「そそそそうねぇ」

 がくがく揺さぶられていた少女がウンウンとうなずく。
 揺さぶられているせいで勝手に首が動いたのか、自発的に動かしたのかは定かでない。

 次第に少女の顔色が悪くなっていく。
 それが顕著に見えたところで春樹は慌てて手を放した。うっかり動揺しすぎたらしい。

 深呼吸。吸って吐いて。また吐いて。さらに溜息を吐き出して。
 春樹はようやく肩の力を抜き、息を整えてから頭を下げた。

「あ……えっと、取り乱してすいませんでした」
「いいえー。意外と積極的でビックリしたけどね」

 ひゃひゃひゃ、と少女は何でもないことのように気の抜けた声で笑った。
 すぐに顔色を取り戻した辺り、意外とたくましいのかもしれない。
 耳を打つ笑い声はあまりにも邪気がなく、春樹もホッと胸を撫で下ろす。

「まあ、そういうわけで。可能性としてはけっこーイイ線いってると思うんだけど、春樹くんとしてはどうかな?」
「……なくはないこともないんじゃないかなとは思います」
「……優柔不断って言われない?」
「…………まあ、時々」

 少女が呆れたような眼差しを向けてくるが、仕方ない。断言出来る要素はないのだ。
 鏡がここにあった。そしてこの付近で人がいなくなった。
 ただそれだけ。繋がるかどうかは分からない。

「それに、たとえ道が繋がったからといって簡単に行けるものでは……」
「春、」
「――?」
「兄ーっ!」

 どごっ ごきっ

 そんな鈍い音と同時に背中に衝撃、首筋に痛みが走った。次いで気道を締め付ける圧迫感。
 目の前が白い。

「春兄もここに来てたのかっ? 偶然だなー! あれ? 誰それ、友達?」
「……! ……!」
「春兄?」
「ダイちゃーん。そのままじゃハルさん、どこか遠いところに行っちゃうよー?」
「へっ? ……うわ、どうしたんだよ春兄! 青い顔して!」
「お前のせいだっ!」

 腕の力が緩んだ刹那、身を翻し目標物へ手を振り下ろす。
 スパァンと小気味いい音。
 森中に響いたその音は余韻を持って静かに消えていった。
 その余韻を引き取るかのように、春樹の手に携えられた白いソレからは煙が立ち込めている。
 ついでに大樹の頭のてっぺんからも同様に煙。

 春樹は思い切り咳き込んだ。
 気道が潰されそうだった瞬間に怒鳴り声を上げたのだ。
 我ながら無茶なことをしたと思う。
 一方、頭を押さえながらうずくまっている大樹もダメージが大きかったらしい。
 キッと瞳を険しくして顔を上げてくるが、その瞳には涙が溜まっているので迫力は微塵もない。
 うずくまっている上にどうにも埋めがたい身長差があるので上目にならざるをえない事実もまた、残念ながら迫力のなさに磨きをかける。

「いってぇ! 暴力反対!」
「弟が人殺しになるのをみすみす見逃せるか! しかも被害者は僕!」
「オレはそんなつもりじゃっ」
「うっかりでやられた方はもっとたまらないよ!」
「ううう」

 口喧嘩で大樹が勝てた試しはない。
 春樹の口が減らないというより、単に大樹の語彙力の問題だろう。

「だからって何でいつもハリセンなんて持ち歩いてるんだよ……」

 ブツブツと負け惜しみを呟きながら大樹が立ち上がる。
 その後ろから「大丈夫~?」とのんびりした声が聞こえた。
 ひょいと顔を覗かせたのは、大樹の幼馴染である沢田雪斗だ。
 相変わらずのほほんとした雰囲気を漂わせている。

「ハルさん、こんにちは~」

 大樹の隣に並んだ雪斗が軽く頭を下げる。春樹もつられるように微笑んだ。

「こんにちは。……二人はどうしたの? こんなところに来て」
「ハルさんこそ~。デートですかー?」
「あらやだ」

 頬に手を添え、その頬をわずかに紅潮させる少女。
 しかしどう見ても演技がかっているため、かえって春樹は照れたり取り乱したりすることはなかった。苦笑に留める。

「違うよ。僕らはその……最近、ここで行方不明になった人がいるって聞いて。気になることがあったから寄っただけ」
「え?」

 雪斗の顔色が変わる。しかしそれを気にするより早く身を乗り出す影があった。

「春兄、気になることって?」
「……行方不明になった人は倭鏡にいるかもしれないってこと」
「!」

 大樹がパンと両手を合わせた。顔が輝いている。

「なんだ、じゃあ簡単じゃん! な、ユキちゃん。これで安心だぜっ」
「ダイちゃん……でも」
「ダイジョーブ、任せとけって♪」

 心配そうな顔をする雪斗と、お気楽モード全開の大樹。
 春樹は二人を交互に見比べた。
 一体何だというのだろうか。彼らも神隠しについて何か思うことがあるのは確からしいが……。
 大樹は警戒心の欠片もない足取りで先へ進んだ。
 ひょいと鏡を覗き込む。

「この鏡から行ったってことだろ? じゃあオレらもここから行っちゃえば早いよな。オレと春兄で行ってくるからさ」
「え。――えええ!? ま、ままま待って待って待ってぇええ!」
「ぅわっ」

 意外にも止めたのは少女だった。
 大樹を羽交い絞めにし、慌てて鏡から引きずり離していく。
 あまりのことに抵抗も出来なかったらしく、大樹はズルズルと引きずられるままだ。

「な……何だよ? てか姉ちゃん誰?」
「駄目! そこからは駄目!」
「あの……何でですか?」
「倭鏡から行けばいいじゃない!」
「だから、何でですかー?」
「だ、だってどこに繋がってるか分からないんだよっ? あっちに着いた瞬間何が起こるか分からないんだよ? それなら倭鏡から行った方が事前に構えられて安心だし、ほら、とにかくその方が安全っぽいじゃない?」

 言っていることは分からなくもないが、しどろもどろでかなり怪しい。
 しかし大樹はきょとんとした面持ちで瞬いた。
 解放されてすぐに少女を見上げる。

「そっか?」
「そう!」
「むぅ……そっかぁ」

 大樹はあっさり、それはもう素直に納得したようだった。
 素直というか無邪気というか、要するにとことん単純な奴なのである。
 力強く断言されてしまえば、何となくそんな気になってしまうのだろう。

 くるりと振り返った彼が意気揚々と拳を握る。

「んじゃ春兄、倭鏡から行こうぜ」
「え……と」

 やる気満々な彼と違い、春樹は困惑を隠せない。

 ちらと少女を見やる。
 気づいた彼女は微笑んで小首を傾げてみせた。
 その様子からは、やはり悪意は感じられない――と、思う。
 しかし、春樹は少女のことを知らない。本当に信じていいのだろうか。
 そもそも人が行方不明になったという時点で立派な事件だ。
 子供の自分たちが首を突っ込むより、警察や大人に任せた方がいいのではないか。

 とはいえ、これが本当に倭鏡に絡む問題なら他の人には手が出せるものでない。
 自由に日本と倭鏡を行き来出来る春樹たちがどうにかするしかないだろう。
 しかも行方不明になったのは森本――春樹の知り合いだ。
 木村や林が心配している様子を目の当たりにしてしまったことも含め、放っておくには気が重い。

(……それに)

 倭鏡の問題なら、王家である春樹たちには解決する責任がある。

「……分かった」

 知れず重々しくなった呟きに反し、周りは分かりやすいほど表情を輝かせた。
 大樹はもちろん、少女も、また雪斗もホッとした様子を見せている。

 結局厄介事を抱えるはめになってしまった。
 それを諦めの境地でしみじみと思い、春樹は苦笑混じりに少女を見やった。

「そういえば一つだけ確認しておきたいんですけど」
「うん? 何かな?」

 ニコニコと上機嫌そうな少女に溜息。

「あなたのお名前、まだ聞いてませんでしたよね」
「あら」

 目をまん丸に見開いた少女は、間を置いてからひゃひゃひゃと笑う。
 それからふいに大人びた笑みを浮かべてみせた。
 最初に出会ったときのような、どこか不思議な雰囲気を纏って。

「カエデ。そう呼んで」


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