【HCS】名前【⑦】

【HCS】=春樹ちゃんシリーズ

<設定>
「倭鏡伝の春樹がもしも女の子だったら」
・セガ春ラブコメディ
・高校生
・セーガ擬人化あり

<発端>
唯夜「セーガの擬人化がイケメンすぎてつらい。春樹君を女の子化したらセガ春書けるレベル」
あずさ「書いてください」

<執筆>
・執筆者:唯夜さま
・サイト名:Useal Night Sky
・URL:http://sky.geocities.jp/free_night_sky/UNS/top.html

<執筆者から一言>
唯夜「ごめんなさい


※本編とは直接関係ありませんが、女体化・擬人化等が苦手な方はご覧にならないようご注意ください。
 この注意を無視した文句は受け付けられませんのでご了承ください。



今までのログはこちら↓

♭1
慌しい朝。
♭2
「割と違和感」
♭3
唯夜さんオリキャラ、里桜ちゃん登場。
♭4
甘々セガ春ここに極まり。
#番外1
里桜と日向兄弟。
♭5
シリアスってきた(`・ω・´)
♭6
渚がカッコイイだなんて。
#番外2
里桜視点にて。
#番外3
あずさが乱入。大樹ウラヤマ。
#番外4
番外3の続きを唯夜さんにて。

■イラストログ
◆春樹とセーガ
◆大樹と里桜と、?
*****


「泣いたのか、妹」

 国王の執務室を訪ねると、顔を見るなりそう言われた。昨晩は確かに泣いたので春樹は何も言い返さない。

「今日は真面目に仕事してるの?」

 話をそらすように問うと、兄であり倭鏡の現国王である葉は忌々しげに舌打ちした。そんな姿に興味をそそられて、春樹は珍しく執務机から離れない彼の手元を覗き込む。

「あぁ、そういうこと」

 そこには最重要事項と明記されていた。最重要事項は一国を左右する案件だ。いくら面倒くさがりの葉とはいえ、そう書いてあれば放りだすことはできない。

「お城の人も学習してるのね」

 いつも人に仕事を押し付けていたからこうなるのだ。いい気味だと春樹は笑う。

「……」

 とりあえず、今日は仕事の肩代わりをしなくてもいいらしい。ではたまには倭鏡の街に出てみようか。

「それじゃあ、兄さん。私は出かけるね。くれぐれもお仕事サボらないように」
「待て、妹」

 葉に背を向け、執務室を出ようとしたところで呼びとめられた。振り向くと、葉が机を離れて春樹に向かってくる。

「仕事なら手伝わないからね」
「仕事はめんどくせぇし正直サボりてぇが、そうじゃない」

 予想と違う葉の言葉に、春樹は呆けてしまった。すぐに我に返りその間に眼前に立った葉の顔を見上げる。

「何に悩んでんのかは知らねぇ。けどホントにツラくなったら、俺にも相談してみな」

 これこそ予想外だった。優しい葉の言葉に、セーガのことを相談してみようかという気になる。

「うん、ありがと兄さん。でもいいや。それはもっとツラい時に取っておくね」

 しかし、それはやめておくことにした。
 里桜の言うとおり、たぶん自分は一人の男性としてセーガが好きなのだろう。今回のことを相談するのは、それを葉に伝えることになる様な気がしてなんだか気恥ずかしい。
 葉の執務室を出ると、石造りのいかにも西洋然とした城の廊下が続いている。この廊下は葉の執務室があるせいか静かだが、城内は普段人が多い。多くの人が忙しなく動き回って働いている。城を歩いていると、そんな働き者の人達に挨拶をされる。

「春樹様、こんにちは」
「あ……春、樹様、ごきげんよう」

 挨拶をされるのはいいのだが、たまに名前をつっかえられるのが気になる。確かに春樹と大樹は倭鏡にいることすら少ないので、名を呼ぶことも少ないかもしれないが……。
 ――いくらなんでも、ねぇ。仮にも王族の名前だし。
 別に王家だからとかそういう権限を笠に着たいわけではないが、それにしたって、とは思う。
 ――私の評判が悪いのかな。
 しかしこの世界では春樹は何もしていない。
 ――むしろしていないからこそ?
 何かしなければいけないのだろうか。葉は政治を取り仕切っているし、大樹はしょっちゅう外へ遊びに行く。そう考えると、自分だけが何もしていない。だから忘れ去られている、ということなら納得がいった。
 それにしても、だ。自分は何をしたら名前を覚えてもらえるのだろうか。人気取りをしたいわけでもなく、王家の人間としてでもなく、とりあえず名前を覚えてちゃんと呼んでほしいだけだと考えると分からない。
 ――どうせまた来るんだし、あとで兄さんに聞いてみようかな。
 葉に相談するなら簡単なほうがいい。いつも相手をしてくれるが、ああ見えて彼は忙しい人なのだ。

「ま、とりあえず遊びに行きましょう」



 一匹の黒ネコが、港を歩いていた。港と言ってもここは隠し港。海のならず者、海賊が使うものである。
 黒ネコは港に停泊した一つの船を探るように歩を進めた。時折伸びあがっては中を窺う仕草をする。一匹の野良黒ネコを気にする者は海賊にはおらず、黒ネコはしめたとばかりに内部を探っていく。
 海賊船はどうやら補給を済ませており、現在は見張りを残して宴会をしている様子だ。久しぶりの陸なのだろう。宴会も船ではなく陸で行われているようだ。そのためのスペースがあることは確認している。
 ――アイツのことだから、キッチンに立っていると思ったんだがな。
 目的の人物をイメージすると、どうもエプロン姿が浮かんでしまう。
 ――これも、あの妙な渡威のせいか。
 一応見張りに気をつけながら、見える範囲で甲板を見て探る。探し人は見える範囲に出てきてはいないようだった。
 ――宴会にはいなかったから、多分こっちだと思うが……。

「おい、滸ー! お頭が呼んでるぜー?」

 もう少し見えないかと精一杯伸びをした、ちょうどその瞬間だった。背後から船に向かって呼びかける大声が響き、それに追随するように一つの足音が駆け足で近付いてきた。

「え、僕ですか!? でも僕見張り中で……」
「そんなん俺が変わるって。さっさと行けよ」
「ありがとうございます、洋さん」

 近づいてきた男が船に乗り込むと、入れ替わるように一人の若い男が降りてくる。
 ――いた。
 それは黒ネコの記憶と差異はあれど、紛う事なき目的の人物だった。
 最後に見た時の貧相な体つきは、長年の海賊生活と成長期のおかげか逞しくなっている。無駄の少ないしなやかな筋肉を包む肌は、日に焼けて昔日の面影もない。幼かった顔も心なしか精悍になり、過去の理知的な姿と現在の野性味が見事に相まっていた。
 ――格好良くなってやがる。
 舌打ちをして、黒ネコはそっと目的の人物に近づいた。

「探したぜ」

 黒ネコから人の姿へ戻り、若い男に声をかける。驚いたように振り返った若い男は、人の型をとったその姿を見て更に目を丸くした。

「君は……歌月、くん?」
「信じらんねぇって顔してるな。お前のことを知っているはずがないとでも思ったか?」

 いや、と自分の言葉を否定し、黒ネコは続ける。

「思ってたんだろうな。事実世界はお前を忘れている。俺だけだ。俺だけが取り残されたように覚えていた。違和感をもっていた」

 淡々と紡がれる言葉に言い知れぬ力が籠る。それを感じ取ったのか、若い男は気圧されたように瞬き一つせず、黒ネコの声を聞いていた。

「だから、説明してもらうぜ、今の世界の現状を。洗い浚い吐いてもらうぜ、過去に何があったのかを」

 あるいは、まだ驚きが終息しなかったのかもしれない。しかしそれでもいい、と黒ネコは思う。話を聞かせて、そして話が聞ければいいのだ。

「言えよ。俺が全部、聞いてやる」
「……っ」

 若い男は、苦しそうな顔をしていた。その中に悲しみも見えた。
 ――たぶん、こいつは全てを失ってここにいる。
 人間社会の中で、この男は居場所も、家族も、友人も、全てを失ってここにいるのだ。全てを失ったからここにいるのだ。
 彼は過去に出会った黒ネコを知っていた。つまり彼には過去の記憶がある。それはこの形のねじ曲がった未来を作りだした、正しくない過去ではない。
 ――本来あるべきだった未来を形作るための過去を。こいつが持つべき全てを持ったままでいられる未来のための、記憶を。
 この男は、持っている。

「滸? ほーとーりー!?」

 滸。これが今、黒ネコが探した男の名乗る名前。

「今は、話せない」

 少し低くなった、しかし変わらぬ質感の声で滸が言った。

「そうだな。なら、これを」

 そう言って、黒ネコは一枚の紙を手渡す。

「これは?」
「それに、場所と日時が書いてある」

 それだけで、この男は理解する。その確信が黒ネコにはあった。
 ――頭のいい奴なんだ。昔から。たぶん、今も。

「じゃあな。次会うときは、しっかり説明を考えて来い」
「わかった。約束するよ」

 姿を入ってきた時のものに戻し、黒ネコ――渚は海賊の港を後にした。
 ――俺が、元に戻してやる。本来あるべき姿に。



 久しぶりに歩いた倭鏡の城下は、以前となんら変わらぬ様子だった。相変わらず人々は春樹にやさしく接してくれる。
 ――名前、そんなに言いにくいのかな。
 ただ、名前をさらりと言ってもらえないことだけが気になったが。何故か春、とまで口にして、違う名前を言おうとしてしまったかのように首をかしげるのだ。
 ――なんでだろう。まぁ……気にしても分からないかな。
 とりあえず帰ってきたことを知らせようと、葉がいるであろう執務室へ歩いていく。そこへ近づくにつれ、城の中で忙しなく働く人が徐々に減っていた。
 葉が脱走する時のために遠ざけているのだろうが、脱走されている事実がある以上そのあたりは学習してほしい。その度に身代わりをさせられる春樹の正直な感想だった。

「…………っ!」
「……! …………っ!」

 執務室前の廊下に入ると、執務室から明かりと怒鳴り声が漏れていた。
 ――兄さんと……空、さん?
 聞き覚えのある二人の声。近づかない方がいいと思う。だが、春樹の中でこの二人が何故怒鳴りあっているのか聞きたい衝動のほうが勝ってしまった。
 ――この二人が怒鳴りあってるなんて、見たことないもん。
 いつもは空が葉をからかい、葉が鬱陶しそうにしている。邪険に扱い扱われても、はたからどんなに仲が悪そうに見えても結局仲がいい。そんな二人なのだ。
 そっと、執務室のドアに張り付いた。それでようやく中の声が聞こえる。

『いつまでも妹の名前を呼べない、呼んでやれない。その気持ちが分かるのか!』
『分からねぇよ! けどそれは、お前が決めたことだろ!』
『そうだ、俺が決めた。だが、いつまでだ。一体いつまでこうしていればいい』
『それは……。じゃあ、もう春樹って呼んでやればいいじゃないか』

 自分のことだ、と今更ながらに春樹は思った。妹という時点で自分だろうと思ったのだが、何故だか頭がぼやけてしまってそこに思い至らなかった。
 ――そういえば確かに、妹としか呼ばれたことない。
 いや、正確にはここ数年、だが。小学生のころは、確か名前で呼んでくれていたはずだ。記憶はぼんやりしているが、確かに名前で呼ばれていた。
 二人の怒鳴りあいは声だけでも感じられるほどものすごい剣幕なのだが、その分春樹は落ちついていた。というより、人ごとのように感じていた。
 ――なんで、兄さんは春樹って呼んでくれないのかな。

『……だめだ。春樹は、違う』
『飲み物でも、もらってくるよ』

 ――違う? 違うってどういう……。
 考えに耽っていたせいで、春樹は空の言葉を聞き逃していた。目の前で扉が開き、空が出てくる。

「春……樹、ちゃん?」

 彼は春樹に気がつくと、身を凍らせた。やばい、と書いてあるような表情をしている。

「ねぇ、今なんて……」

 しかし春樹は彼が硬直したことより、しまったという表情をしていることより、その前に言い淀んだ名前のほうが気になった。兄の話も気になるが、それは後で聞けばいい。
 ――今、明らかに春樹って言う口の形じゃなかった。別の名前を言おうとしてた。

「今何て名前で私のことを呼ぼうとしたの?」
「関係ねぇだろ。間違えんのは誰にだってある」

 詰め寄った春樹を止めたのは、室内から響いた葉の声だった。

「だからって、いくらなんでも多すぎよ。城の人も、街の人も私の名前を言い淀む。兄さんが私を『妹』って呼ぶのだって、関係あるんじゃないの!?」
「ったく、面倒くせぇ。いいか、妹。俺はお前がどんな名前で、どんな人間で、どんな見た目だろうと、お前が妹である限りお前を愛してやる」

 それで我慢しろ、と葉は珍しく優しく微笑んで、空を連れて去って行った。

「誤魔化された」

 一人残された春樹は、ただぼんやりとそう口にするのみ。考えを整理しようとするが、兄の意外な言葉がこびりついて離れなかった。
 ――どこまでも人を邪魔してからかって……。
 からかった。そう思うのだが、どうも違う気がする。本気の言葉だったと思ってしまう。
 ――面倒なのは兄さんの性格じゃない。
 考えをまとめることが上手く出来なくて、春樹は深いため息をついた。


*****


あずさ「葉兄も渚も滸クンもかっこよくてつらい」
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Author:あずさ
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二つ名:囁(アビス)
あだ名:エゴイスティックスケコマシ
四字熟語:好色生活
(※二つ名メーカー、脳内メーカー等による結果)
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